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海を越えて「人を起点とした経営」を実践

海を越えて「人を起点とした経営」を実践

企業の理念は国や文化を越えて連帯と活力を生む。経営不安の状態から優良企業として評価されるまでに回復した富士ゼロックスコリア(韓国)の10年間を報告する。

通貨危機と経営不安

1974年、富士ゼロックスは韓国で、韓国ガラスの持株会社であった同和産業株式会社と折半出資して富士ゼロックスコリアを設立した。翌年から小型複写機の組み立て生産も開始した。これは富士ゼロックスとして最初の日本国外での生産事業であった。ソウルオリンピック景気(1988年)、ISO9001認証取得(1992年)、中高速複写機の独自開発生産(1997年)と、事業も順調に推移した。しかし、1997年のアジア通貨危機が飛び火して、韓国の経済は大混乱に陥った。

1998年、事業パートナーである同和産業から保有する富士ゼロックスコリア株式の買い取りを要請された富士ゼロックスは、富士ゼロックスコリアの全株式を取得し、併せて40億ウォンの増資を行なった。新生富士ゼロックスコリアの改革は、新たに日本から会長として赴任した高杉暢也(現最高顧問)と、同社の経営に精通している鄭光殷(現会長)、そして当時営業副本部長であった中野ひろみ(現社長)が加わって始まった。

1998年、富士ゼロックスコリアは初の赤字決算を経験した。資金繰りも苦しかった。労使交渉の場で経営側は、ボーナスの支給時期を2カ月延期したいので協力してほしいと労働側に申し入れた。「当時は、労働組合も組合員も猛反発しました。しかし、新しい経営陣は、何が悪くてこのような苦境に堕ちたのか、どのように再建しようとしているのか、我々が納得するまで事実に基づいて説明してくれました。延期した支払期限もきっちり守ってくれました。あの出来事が会社と労働組合との信頼関係を築く契機になったと思います」と富士ゼロックスコリア労働組合の金榮萬委員長は振り返る。

社員との信頼をベースに

「富士ゼロックスコリアを強い・おもしろい・やさしい会社にしていきたい」と熱く語る高杉。/「まずは、目標管理や現場・現物・

現実など仕事の基本の徹底を繰り返し求めました」と中野。

確かに解決すべき課題は多い。しかし、従業員のポテンシャルは高い。一人ひとりが会社の将来を考える気概を持てば素晴らしい会社になる。従業員を主人公として韓国の文化と社会に根付いた「よい会社」を作ろう。高杉と鄭、そして中野の考えは一致した。

1998年4月の就任あいさつで高杉は従業員全員に訴えた。「富士ゼロックスコリアは、韓国のみなさんによる、韓国のお客様のための、韓国に工場がある、韓国の会社です。変えた方が良いものはどんどん変えていきましょう。我々の業績がなぜ低調なのか、ほかのグループ会社や競合会社と比較分析して改善しましょう。そして、富士ゼロックスコリアを強い・おもしろい・やさしい会社にしましょう」。それと同時に、「富士ゼロックスコリアは韓国企業の事務生産性の向上に貢献し、21世紀のグローバル時代における韓国経済の発展に寄与する」という企業理念も制定した。

そして、まず行なったのは、社内報やビデオメッセージで正確な経営情報を従業員全員に知らせて、経営の透明性をはかることだった。それと同時に、経営陣と現場の従業員が直接対話する機会をたくさん設け、お互いの気持ちを正直にぶつけあった。

中野は特に、目標管理や現場・現物・現実など仕事の基本の徹底を繰り返し求めた。さらに各階層に応じた従業員の能力開発教育を充実させた。こうして目標や課題を共有することで組織や仕事に規律と一体感が生まれてきた。

「自分のやった仕事が会社の成長に直結していると感じられるようになった」と話すのは、営業力強化推進チームトレーナー金相勳だ。「経営者が私たち社員と同じ目線に立とうとしている、その姿勢にはとても共感します。経営の透明性が高まったことで、社員の会社への信頼感が高まりました」。

「富士ゼロックスコリアの社員教育制度が他社からも注目させていることに、とても誇りを感じます」とファン

一方、商業営業チームのファン東洙は、営業のケーススタディや語学研修など、基本的な職業能力を強化する社員教育制度を高く評価している。これらが他社からも注目され、業界他社の目標となっていることについて、「とても誇りを感じるし、それが仕事への強いモチベーションにもつながっている」と語る。

労働組合と経営陣との信頼関係も日を増すごとに深まった。富士ゼロックスコリアは、2001年に労使無紛争を宣言している。事実、2001年から連続6年間、労使無紛争で賃金を妥結している。労使間での対立が絶えない韓国の社会では、これは異例のことである。従業員の意欲の向上につれて経営は安定し始めた。2001年から毎年実施している従業員の満足度調査のスコアも上昇し、それに比例して売上も伸びた。

社員の満足度調査結果

総資本利益率の推移

リスクをチャンスに変えるリーダーシップ

「仁川工場の従業員は、会社の将来に不安を感じていました」と当時の心境を語る金常務の金壽泳が仁川工場に赴任したのは2001年。その頃、富士ゼロックスは、中国拠点への生産集中の可能性を検討し始めていた。「仁川工場の従業員は、会社の将来に不安を感じていました。その姿を見て、何とかしなければと責任を感じました」と金は当時の心境を語る。金は何度も日本に足を運んで、製販一体の重要性、仁川工場での雇用確保の重要性を日本の経営陣に訴え続けた。金の熱意は関係者の理解と多くの協力者を生み、仁川工場は、複写機の周辺機器や欧米向け輸出商品の生産基地という新しい任務を担うことになった。

仁川工場の従業員は、精魂を傾けて仕事に打ち込んだ。新しい目標の実現に労使が力を合わせた結果、2001年と2006年との比較で売上は約7倍、生産台数は約9倍に成長した。また、2001年当時約60人だった地元採用の生産ラインの要員は、2007年には約500人に増加した。それまでの開発・生産、輸出伸張、人材育成の優れた業績に対して、2007年3月、金は韓国最大の経済団体である韓国商工会議所から大統領賞を受賞した。「この表彰は仁川工場を代表して受賞したもの。地域との共生のためにも、この工場をさらに発展させ、従業員と一緒に夢を見続けたい」と金は胸を張る。

地域やお客様に愛される会社に

富士ゼロックスコリアでは、持続可能な成長に向けて、従業員の能力開発や社会との豊かな接点づくりに注力している。仁川工場では就業前(午前7:20~8:20)の語学自主講座(英語、中国語、日本語)を開催し、多くの従業員が参加している。「富士ゼロックスコリアの従業員は、しっかりした教育を受けていることをこの地域の人は知っています。そういった地域の評価が、仕事のやりがいにつながっています」と教育担当の朱美宣は語る。これらの活動は着実に成果につながり、2000年に年2~3%だった離職率も現在年0.8%に激減した。

また、社内ボランティア団体ハンサラン会の会長であり、マーケティング部で顧客満足度調査を担当している張金淑は、「仕事へのやりがい、私生活の充実が従業員の満足を高め、それがお客様の満足につながっていることを実感します。顧客満足度が6年連続で業界一位(韓国能率協会2001年度から2006年度調査)なのも、商品やサービスを通じて私達の熱意がお客様に届いたからだと思います」と嬉しそうに語った。

「富士ゼロックスコリアの従業員への地域からの評価が、自分のモチベーションにつながっています」と朱/「仕事へのやりがい、私生活の充実が従業員の満足を高め、それがお客様の満足につながっていることを実感します」と誇らしげに語る張

企業理念は国境を越えて

ユネスコの世界遺産にも指定された韓国「八万大蔵経」は、1237年から12年間、1,000名余の彫り手が、81,258経、5,200万字を経盤に刻印した文化遺産である。近年、この作品がデジタル処理され、一字の誤字・脱字もないことが判明した。この驚くべき結果は、一字三拝の精神に由来する。一字三拝とは一文字を刻んでは三度お辞儀をする意味である。最初は祖国のために、二番目は家族のために、最後は自分のために、切なる願いを込めて頭をたれる。品質に対する韓国民族の考え方の源泉は、こうした匠の精神にある。

経営が足元をしっかり固めれば、集まった人々が能力を発揮して、良い会社が実現する。労働条件や報酬も大切だが、会社が正しい方向に進むには、一人ひとりの情熱をつきあげる「何か」が必要だ。富士ゼロックスコリアの再生劇は、韓国文化の精神と富士ゼロックスの企業理念との相乗効果によって生まれた人々の熱意の成果である。この10年間の奮闘は、富士ゼロックスのグローバル展開における好例の一つとして、長く語り継がれるだろう。

[第三者のご意見]

所長 小林 直人 氏

国際交流基金ソウル日本文化センター
所長 小林 直人 氏

富士ゼロックスコリアは、三つの点で韓国社会、韓国の企業文化に新しい風を吹き込みました。一つ目はグローバル企業の特長である透明性の高い経営を、二つ目は日本企業の特長である経営者と従業者が同じ目線で語り、ともに目標を達成する労使協調を、そして三つ目は韓国企業以上に地元社会に根ざす姿勢をもたらしました。高杉最高顧問は日系企業の経営者としてだけではなく、韓国の経営者としても高く評価されています。富士ゼロックスコリアは、これからも韓国社会のために、そしてさらに、東アジアの共生と発展のために尽力していただければと思います。

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