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グローバルに事業活動を展開するうえで、人材の活用はどうあるべきか。
従業員の多様化と柔軟な就労形態で、業績の向上を図る富士ゼロックスオーストラリア。
同社の取り組みと、それを学ぶ本社人事スタッフの活動を紹介する。
2008年6月、富士ゼロックス人事部の福田殊和は、富士ゼロックスオーストラリアの人事部長ベス・ウィンチェスターを訪ねた。富士ゼロックスオーストラリアは、1,636名(男性1,212名、女性424名)の従業員、6拠点の支社で全国の販売網をカバーし、年間6億8,900万オーストラリアドル(約700億円)の売上(いずれも2007年度実績)を上げる、富士ゼロックスの100%出資による販売会社である。
今、富士ゼロックスは、世界規模の事業拡大に対応し、お客様をはじめとするステークホルダーとの連携を図ることができる人材をより多く求めている。このような状況を受け、福田が所属する人事部人材戦略グループはその任務として、多様な人材を採用し、最大限に能力を発揮してもらう、グローバルに通用する人材の獲得・育成・活用を掲げている。「富士ゼロックスは、グローバルに共有する価値観の展開と、人材育成の仕組みを整備することが求められています。全体の活動成果を最大化するには”Think Globally, Act Locally”の姿勢が大切です。そのためには、各国の人事制度の背景を正確に理解して、それぞれの人事関係者と良好なコミュニケーションを図り、お互いに学びあうことが不可欠です」と福田は語る。そして、最初の訪問先に、業績の向上策の柱に人事制度をすえる富士ゼロックスオーストラリアを選んだ。
オーストラリアは、コンプライアンス・プログラムの規格(AS3806)や、企業の社会的責任に関する規格(AS8003)が早くから制定され、ISO(国際標準化機構)が2010年発行に向けて活動を進める国際的なCSRガイダンスであるISO26000の策定作業にも積極的に貢献するCSR先進国である。
広大な土地に比べて人口の少ない同国では、毎年数万人の移民を政策的に受け入れ、国籍・人種・言語・文化の多様化が進んでいる。1970年代に白人優先主義を撤廃して以来、人種差別などの人権侵害に社会が敏感に反応し、労働者の採用や昇進・昇格の際にも、平等な機会の提供が厳しく企業に求められる。
同国では、数年前まで貧困、失業、インフレなどの社会問題が大きな政策テーマとなっていたが、現在は景気が上昇傾向にあり、失業率も4.3%と歴史的な低水準にある。このため、労働市場は売り手市場が続き、優秀な人材の確保が難しくなりつつある。
福田は、富士ゼロックスオーストラリアで働いているスタッフに話を聞いた。「私は3年前に出産し、1年間の育児休職の後、まず週2日の勤務で復帰しました。その後、週3日に増やし、現在は週4日勤務しています」と話すのは人事部のバネッサ・タルティー。彼女は自分自身の経験も踏まえて、柔軟な人事評価システムの開発を担当している。また、バーバラ・オルライトは「趣味に時間を割きたいので、9日間は通常より長く働き10日目は休むという働き方を上司との合意で試しています」と自分の働き方を説明する。富士ゼロックスオーストラリアでは、趣味も、フレキシブルに勤務形態を変更する正当な理由なのだ。一人ひとりの事情や多様な価値観が反映できる働き方に福田は驚いた。
「オーストラリアの成人の35%は、なんらかの理由で働いていません。その中には、高い職業能力と就労意欲を持ちながら、個人や家庭の事情が制約となって毎日フルタイムで働くことができない人もたくさんいるはずです。一つの方法や基準で、全員が満足できる制度などありません。そこで就労条件の柔軟化を図り、一人ひとりのニーズに合致した働き方を提供することによって優秀な人材を合理的な報酬で確保する、それによって会社全体の生産性を高める方針に大きく転換したのです」。これらの改革を推進してきたウィンチェスターは語る。彼女は約2年前に大手の建設会社から転職して、富士ゼロックスオーストラリアの人事部長に就任した。当時の同社は、男性従業員が全体の4分の3以上を占め、午前9時から午後5時まで事務所でネクタイを締めて働くことを当然とする価値観がしみわたっていた。その一方で、退職者の補充を募集しても欲しい人材が集まらず、若い労働者は入社してもすぐに辞めてしまう状況が続いた。大企業ではないので飛びぬけて高い給与を提示することはできない。しかも、空前の好景気では、優秀な人材に就職候補先として考えてもらうことも困難を伴う。そこでウィンチェスターが考えたのは「自分の希望にあった働き方に柔軟に対応してくれる会社、一人ひとりの価値観が尊重されて楽しく働くことができる会社にする」という基本方針だった。こうした人事部長の考え方は社長のアンディー・ランバートも強く支持し、同社のCSR方針の一翼を担っている。

富士ゼロックスオーストラリアが、2007年9月にサービス事業の一部として買収したKAZ社のBPS事業。クレジットカードや保険の個人申込み用紙を管理・入力し、データ化するのが主な業務だ。買収と同時に富士ゼロックスオーストラリアのマネジャーとなった元KAZ従業員のサマンサ・フィッツジェラルドが、オフィスで説明を聞いてまわる福田に話しかけてきた。「機械化の投資を支持してくれたので、みんな高度な仕事に集中できるようになりました。緊急なデータ入力業務もあるのでチームワークが重要です。でも、全員がフルタイムで勤務する必要はありません。柔軟な働き方をする従業員の組み合わせで、日々新鮮な気持ちで効率よく仕事できます。みんな喜んで、やりがいを持って仕事しています。買収後に転職した人はほとんどいません」。
福田は、働く従業員の言葉に富士ゼロックスの「人を中心とした経営」がここでも実現していることを実感した。社会と豊かな接点を持ち、新しい時代のスキルやリーダーシップを備える人材こそが企業の未来を支える時代である。従業員の成長と会社の成長が、社会の役に立つという発想が求められる。富士ゼロックスのCSRは、こうした人事政策の上に成り立つといっても過言ではない。
福田が仕事をする日本では、ダイバーシティを、女性や外国人の登用、障がい者の雇用に関するポジティブ・アクションの意味にとらえる傾向がある。その背景に、日本企業は戦後、画一的な労働市場から均質の労働力を確保できる環境であったために、他国でとらえているダイバーシティの真の意味するところを理解しづらい状況があるのかもしれない。これに対し、富士ゼロックスオーストラリアは、まず優秀な人材を確保するために就労条件を柔軟化し、その結果として集まった多様な人材の相乗作用によって、会社全体の生産性を改善するマネジメントに挑戦している。多様な人材を惹きつける経済力、企業ブランド、マネジメント力を備えることが競争力の源泉なのだ。
働き方に対するニーズは国や地域によって異なる。その地域のなかでも、いろいろな価値観を持った人材が眠っている。多様な人材の活躍を、生産性の向上につなげるために、就労形態の選択と運用を柔軟化し、一人ひとりの働き方に対応することによって、人材を多方面から引き寄せて相乗の効果を引き出すことを考えなければならない。富士ゼロックスオーストラリアが取り組んでいるダイバーシティ・マネジメントは、なにか大きなヒントを福田に与えた。
こうした福田の意見にウィンチェスターが答えた。「そのとおりです。私はすべての従業員がダイバーシティの対象だと考えています。女性、民族、宗教、障がいなどに対する配慮も大切ですが、趣味のために就労時間を短縮したいという希望も同じように扱うべきです。当然短縮した勤務時間に応じて給与は減りますが、「自分の事情に配慮してくれた」という感謝の気持ちが生まれます。このように感じる従業員は一生懸命働いてくれるので、結果的に生産性が高まるのです。その従業員が申し出た就労条件のなかで、どうすれば会社にとっても最大の貢献をしてもらえるかを考えるマネジメント能力が、企業の持続可能性を左右するのだと思います」。
富士ゼロックス人事部長の日比谷武は語る。「グローバル化した社会で企業の成長を支えるのは、共有価値をベースとした従業員一人ひとりの帰属意識と誇り、自己実現の意欲だと思います。人事政策は、それを可能にする道筋を示すものでなくてはなりません。私は、その鍵を握るのが各国の実情に応じたダイバーシティ・マネジメントだと考えています。これを実現するには、現場の要望に柔軟に対応し、公正妥当な評価ができ、変革を生み出す管理者、すなわち『リアル・チェンジ・リーダー』をたくさん育てることがポイントです。制度で人を動かすのではなく、人が活きる制度や仕掛けを考えるのが、これからの人事の仕事でしょう。多様な人材が、熱心に仕事して、きちんと成果を出してくれる。その過程を通して一人ひとりが成長を実感したり、働く喜びを感じる。そんな富士ゼロックスおよび関連会社になるよう、各国の取り組みを学びながらねばり強く支援していきたいと思います」。
働き手の多様なニーズに就労形態で柔軟に応える。富士ゼロックスオーストラリアの挑戦に、福田は多様な人材の活躍を促進するうえでの大きな示唆を得た。企業集団の経験と知恵を共有して、富士ゼロックスの人事戦略はさらに前進する。