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労働問題の増加が報告されている中国・華南地区。
富士ゼロックスシンセンは、CSR調達の活動を通じて取引先の経営改善に協力している。
お互いが強くなろうという目標に、取引先と富士ゼロックスシンセンとの絆が強まった
2007年8月、富士ゼロックスは、東京を皮切りに、仁川(韓国)、上海、シンセンで、CSR調達説明会を開催した。
「昨年初めての労働争議を経験し、困っているときに富士ゼロックスのセルフチェックリストやガイドラインをもらいました。それまでは品質・コスト・納期の改善に専念していましたが、資料を参考に労働環境や寮の整備を進めたところ、従業員が自主的に動いて、経営を支援してくれるようになりました。1年早く対応していれば労働争議は避けられたかもしれませんね」。 中国・シンセン市で機械部品の製造に携わる聖紀塑膠製品(シンセン)有限公司の陳順城副総経理は語る。「質問書類だけを送りつけてくる発注企業もありますが、富士ゼロックスはガイドラインやフィードバックが充実していて、取り組みの質の高さを感じます。電子機器業界の他社にも水平展開して、我々の回答の負担を軽減してほしいですね」。富士ゼロックスへの期待は大きい。
富士ゼロックスシンセンの労務管理アドバイザーであるNPO シンセン当代社会観察研究所の劉開明所長は、華南地区の労働事情を次のように説明する。「中国、特に華南地区では、賃金や処遇を理由とする労働争議が最近急増しています。その背景には、労働契約、労働安全衛生、最低賃金など法律や条令・規則が頻繁に変わるので、経営者の対応が追いつかないこと、また、一人っ子政策の世代が増えるにつれ、安くて補充・代替が可能な労働力の確保が難しくなってきたことがあります。さらに、若い労働者は携帯電話を駆使します。近隣の会社で賃金が上がったと聞けば、その背景や理由とは無関係に、自分の勤務する工場でも賃上げを要求したり転職したりすることも珍しくありません」。それに加え、原材料費や人件費の上昇、人民元高による輸出採算の悪化、外資企業に対する優遇措置の廃止・縮小と、中国での事業展開は新たな対応を迫られている。
これまでのところ、富士ゼロックスのCSR調達は現地の取引先の理解を得て、計画どおり立ち上がりつつある。これは生産現場のスタッフの努力と工夫によるところが大きい。
「我々調達スタッフには、取引先の課題に対して効果的な支援を行なうことによって信頼関係を強化し、取引先の従業員のモチベーションや品質・コスト・納期の改善を保証する任務があります。その上、取引先からは、本当にここまでやる必要があるのか?という反応が予想されました。ですから、調達業務に携わる我々自身が内容を正確に理解して、その必要性を納得しなければならないと考えました」。富士ゼロックスシンセン采購統括部長の多田順一は語る。
その後の展開は順調だったのだろうか?CSR調達の導入展開を担当する采購統括部企画推進科科長の楊元鐘が説明する。「取引先の各社は、限られた対応力に複数の企業から同様の調査が要求され、対応に苦慮しています。ですから、セルフチェックや改善計画のフォローには予想以上の手間と時間がかかりました。しかも、回答されたデータと実態とが直感的に一致しないケースが多くて、どのように調査を進めるべきか考えあぐねました。日頃から取引先の現場に足を運んで、問題を肌で感じる大切さを改めて認識しましたね」。このように楊は、取引先のフォローと回答の信頼性への配慮が重要であることを指摘する。
富士ゼロックスシンセンでは、取引先から回答されたセルフチェックと改善計画に基づいて、次の要領で「訪問確認」を進めている。
「訪問確認」チームは、采購統括部(部長、バイヤー)、人事、環境、総務、法務、CSRの各担当者で構成している。チームでは実施する際のポイントを(1)采購統括部長が「取引先の利益のために実施すること」を相手に説明する(2)取引先の総経理、副総経理など経営層に参加していただく(3)チェックリストの自己評価だけを信じず、工場や寮など現場を目と耳で確かめる、と決めた。
「今までは、取引先を訪問するのはバイヤーの仕事でした。しかし、CSR調達が導入展開され、他部署のスタッフも一緒に訪問することから、バイヤーには取引先の状況をより良く理解しておく努力がこれまで以上に求められるようになりました。今後はすべてのバイヤーに、CSR調達の重要性や、富士ゼロックスの一員としての姿勢を正しく理解してもらう予定です。本当に強いバイヤーが育つことを楽しみにしています」楊は語る。
さらに、CSR推進室科長の劉美華がこの点の感想を語る。「采購統括部の部長やバイヤーだけでなく、人事、環境、法務などの本社スタッフが一緒に行動することで、スタッフの育成という面においても非常に良い影響があります。自社の取り組みが先進的である点が分かる、訪問して親身に対話することで取引先からも感謝される、といったことから、仕事に対する意欲や会社に対する帰属意識が向上し、経営に対する理解も進みます。また、他部署の仕事の価値を知ることによって、部署間のコミュニケーションも改善しています」。取引先の問題を改善しようとチームで取り組むことで、スタッフのプロ意識と部署間の連携が育っているのだ。
「富士ゼロックスが示したセルフチェックリストを見たとき、この項目に全部合格しないと取引を停止されると勘違いして、社内で大騒ぎになりました。しかし、丁寧に読むとどれもやらなくてはいけないことばかりで、よくぞここまでまとめてくれたと感心しました」。中国・シンセン市で機械部品の製造に20年以上携わる奄美弾簧有限公司の名島直徳総経理は語る。「セルフチェックの後の訪問確認も我々にとって役立ちました。富士ゼロックスシンセンの中国人スタッフは若いのによく勉強しています。何が問題でどう解決すればよいか、人事や環境など専門のチームが的確に教えてくれます。中小企業の我々が、どうすれば品質・コスト・納期とCSRを両立できるか、具体策を引き続き一緒に考えてほしいですね」。名島総経理は富士ゼロックスへの期待を込めて語る。
新技術の開発や、一層のコストダウン努力が求められる製造業の現場では、利益の保証とCSR調達を両立させる上でさまざまな障害にぶつかる。それゆえ、取引先の経営層にCSR調達を要請しても、現場のリソースが足りず、点検や是正がなおざりになる事態が想定される。
そこで、CSR調達に取り組む必要性を取引先の経営層に納得してもらった上で、取引先の現場には実践的な点検・是正の手順やツールを提供することが不可欠である。さらに、CSRの議論の広がりとともに、企業に対する社会の期待もますます専門的になるので、変化を察知して対応できるスタッフの育成・確保も必要だ。
富士ゼロックスシンセンの導入当時の責任者で、現在は生産センター長の蒔田信之が語る。「CSR調達は継続が大切です。現場だけで推進していると行き詰まることも多いし、世界の動向などもつかめないので、本社や調達本部のタイムリーなサポートが必要です」。書類や指示だけでない、本物の改善につなげることが富士ゼロックスの本社と現場との共通の目標である。
シンセン当代社会観察研究所の劉開明所長は語る。「富士ゼロックスがCSR調達を経営戦略の中心にすえて、総力を挙げて取り組んでいることに敬意を表します。訪問確認チームの教育プログラムに私も関与しましたが、その教育内容の水準や準備の細やかさは、ほかに例を見ません。欧米企業もここまではやりません。一人でも多くのスタッフがCSR調達の意義を理解して、取引先と具体的な改善策を語り続ければ、会社や取引先の業績も、そして華南地区の社会も良い方向に進むと期待しています」。
さらに今後の課題も指摘する。「取引先が診断に慣れて表面的な回答をしたり、悪質な取引先が社内文書を偽造して訪問確認に臨んだときに見抜く力をつける必要があります。また、何度警告しても改善しない取引先への対応も考えなければなりません。外部の専門監査人との共同体制の強化も検討すべきでしょう」。
開発・生産担当役員として、2年前にCSR調達の導入推進を指示した富士ゼロックス社長の山本忠人は、これまでの活動を振り返って述べた。「お客様や株主から見れば、取引先の工程も富士ゼロックスの工程も同じです。一緒に改善を繰り返す気概と行動力がなければ、市場競争に生き残る品質やコストの改善は実現しません。CSR調達は特別なことではありません。CSR調達は商品の品質そのものだと考えて、ねばり強く続けます」。
取引先の労働環境の改善を、富士ゼロックス商品の品質向上につなげる。この遠大な計画は始まったばかりだが、関係者は強い手応えを感じている。より分かりやすく、よりはっきりした効果をと、関係者の努力が続く。