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イノベーション事例:慶應義塾大学 世界初3Dデータフォーマット「FAV」

3Dプリンターを活用した新しいものづくり環境の実現に向けて 研究技術開発本部 マーキング技術研究所 藤井 雅彦、髙橋 智也

富士ゼロックスは、2015年4月から慶應義塾大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ(代表:田中浩也教授)と3Dデータハンドリングに関する共同研究を開始し、翌年の2016年7月には、複雑な情報を保持する世界初注1の3Dプリンター用データフォーマット「FAV」注2を共同で策定、Webサイトで仕様を公開しました。共同研究を開始してから、約1年で仕様公開に至った連携活動についてご紹介します。

3Dデータフォーマットのあるべき姿の実現に向けて

研究技術開発本部 マーキング技術研究所
藤井 雅彦(左)、髙橋 智也(右)

約10年前までは、光造形を中心とする3Dプリンターによる立体造形はラピッドプロトタイピングと呼ばれ、モックアップや視覚モデルの作成など、開発プロセスの一部で活用されているに過ぎませんでした。しかし近年、材料技術を含む3Dプリンターの技術進化に伴い、開発プロセスや生産プロセスでの様々なシーンで活用が進んできました。また、低価格なコンシューマー向けの商品も市場に多く導入され、身近なものづくりのツールになりつつあり、今後、3Dプリンター市場の大きな成長が予測されています。

富士ゼロックスは、この市場においてどのような価値を提供できるか検討してきた中で、次の大きな課題があることが明らかになりました。

  • 一般的に用いられている3Dプリンター用のデータフォーマットは、ポリゴン(三角形)により立体物の形状のみを表現するものが多く、技術の進歩により可能になったフルカラー化やマルチ材料の使用、複雑な内部構造の表現に十分対応できていない。
  • 3Dプリンターに出力するまでのデータフローが複雑で、煩雑な中間処理が必要になっている。例えば、CADデータを3Dデータフォーマットに変換する際にエラーが発生すると、その度に修復が必要。さらに、シミュレーションとの連携も不十分。

富士ゼロックスでは、これらの課題を解決するためには新たな3Dデータフォーマットが必要との結論に至りました。そして、二次元画像の基本構成要素である「ピクセル」と同じように、立体の基本構成要素である「ボクセル」で立体物を表現することが自然であり,今後の発展性も高く,またピクセルによる画像のハンドリングや処理技術を保有する富士ゼロックスの強みが発揮できると考えました。そこで、3Dデータ処理に関する知見を得るとともに、この考え方に基づく新たな3Dデータフォーマットの実現性・有用性を検証するため、3Dデータ利活用の社会実装に先進的に取り組まれていた慶應義塾大学の田中教授に共同研究を申し込みました。

「3Dを世界中に広めることで、社会課題を解決したい」という高いレベルでの合意が活動を加速

藤井: 3Dモデルをボクセルで表現し、そのデータをハンドリングする技術の研究を行うことが慶應義塾大学との共同研究の目的ですが、「3Dプリンターをより世界中に広め、豊かな生活空間を実現したい」という理念が、一番最初に慶應義塾大学と合意できたことだと思います。合意のベースとなったのは、この活動は一企業のための利益追求ではなく、世の中のものづくり全般への貢献を目指すものであり、社会課題解決に繋げたいという思いです。慶應義塾大学の田中浩也教授も私自身も、この思いを強く抱いていました。

2016年の7月に3Dプリンター用のボクセルベースデータフォーマット「FAV」の仕様を公開したことは、この理念の具現化の第一歩になるものだと考えています。社会課題解決への思いは連携活動の原点となっており、共同研究の方針や展開に迷いが生じた時は、必ずこの原点に戻って判断することを心がけています。

「FAV」の仕様公開直後から、問い合わせや提案を数多くいただいております。これは「FAV」の可能性や現在の3Dプリンターへの課題認識が正しかったという裏付けでもあり,共同研究で大事にしている社会課題解決への強い要望だという思いを一層強くしています。

コミュニケーションを大切にすると、本当に必要なものが見えてくる。

髙橋:今回の共同研究では、メンバーの「思い」を具体的な技術や仕様に落とし込むのが一番大変でした。目標は「新しい3Dデータフォーマットの提案」ですが、現状の3Dプリンターの改善や機能強化だけでなく、またプリンターだけではない3Dデータの利活用なども含めた、先を見据えた検討が必要でした。そこで重要となったのは、コミュニケーションでした。

3Dプリンター分野では、プリンタメーカーや材料メーカーはもちろん、設計者やエンジニア、実際に3Dプリンターを操作するオペレーターなどのプレイヤー、さらには製造業に留まらない建築・医療・看護・教育といった様々な業界のユーザーなど、期待を寄せるプレイヤーが数多くいます。従って、新たに作る3Dデータフォーマットは、特定の方式や特定の業務プロセス、特定の業界に効果が限定されるような仕様ではいけないと思いました。そこで、コンソーシアムを始めとする様々な場に参加し、先進的な3Dプリント技術者やものづくり技術の有識者など、多くの方と議論させていただきました。そして、作りたいものを正確に3Dデータ化し、実物化するのに非常に苦労しているということが分かりました。

今回は、様々な人の思いや期待を情報化して整理し、技術要件や仕様に落とし込んで実現するということを行なったのですが、コミュニケーションから価値を生み出す富士ゼロックスならではの取組みができたのではないかと思います。そして、自分自身や慶應義塾大学の田中浩也教授を含めたみなさんの共同研究にかける思いがぶれず、理想の実現に貢献できると信じられたことが、わずか1年という短期間で3Dデータフォーマット「FAV」の仕様公開という成果につながったと思います。

世界初の3Dプリント用データフォーマット「FAV」の仕様書を公開

2016年に3Dプリンターで高い表現力を実現する3Dデータフォーマット「FAV」の仕様書を策定し、公開しました。「FAV」フォーマットの仕様には、慶應義塾大学 田中浩也教授の3Dデータ処理ソフトウェア開発のノウハウと、富士ゼロックスの画像処理技術の要素が反映されており、色や材料,そして接合強度等3次元の複雑な内部構造を保持した状態で,立体物を表現することが世界で初めて可能になりました。さらに、「FAV」フォーマットは、基本要素であるボクセルの積み重ねによって立体物を表現しているため、有限要素による各種シミュレーションとの連携性が極めて高く、シミュレーションによる解析結果の数値をそのまま設計データに反映できるなど、データ変換を必要としないシームレスなやりとりが可能になります。また、3Dデータの編集性にも優れており、画像の切り貼りや合成などの加工と同じ感覚で3Dデータの生成や編集が行えるため、カスタマイズが容易になるなど、3Dプリンターにおけるものづくりの世界がさらに広がります。

イノベーション事例:慶應義塾大学 世界初3Dデータフォーマット「FAV」

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3Dデータフォーマット「FAV」の仕様書を公開 [PDF:2.75MB]

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3Dプリンターを活用した新しいものづくり環境を目指して

現在、3Dデータフォーマット「FAV」をデファクトとすべく、慶應義塾大学が拠点になっている文部科学省COI(Center Of Innovation)「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」など様々な活動に展開しています。また国際標準にするため、2016年のISO/ASTMの国際会議において発表し、3Dデータフォーマットにおける日本のプレゼンス向上と「FAV」の認知度向上に貢献するこができました。

今後、富士ゼロックスは「FAV」フォーマットの仕様拡充や「FAV」データを扱うためのハンドリング技術の提供などを行い、「FAV」による3Dプリンター活用の推進を通じて,お客様と一緒に新しいものづくり環境を実現していきたいと考えています。

慶應義塾大学 田中浩也教授

慶應義塾大学
環境情報学部
田中 浩也 教授

もともと、3Dプリンターにかかわる日本国内の研究プロジェクトが、国も企業も「製造装置(機械)」や「材料」といった物質部分にばかり傾倒するあまり、「3Dデータ」や「ソフトウェア」といった情報部分の重要性が認識されていないのではないか、と危機感を持っていました。大学の研究室として、3Dデータやソフトウェアのプラットフォーム開発を独自に進めていたのですが、企業側の立場から社会実装を一緒に推進してくれるパートナーを探していました。そんな折に、富士ゼロックス(株)さんと出会い、単なる技術移転ではなく、高次のレベルで「ビジョンを共有」できたことは、本当に良かったと感じています。今後も、企業と大学のもっとも理想的な産学連携のかたちを追求していきたいと思います。3Dデータに関しては、材料やカラー表現の問題以外にも、著作権の柔軟な管理や、ブロックチェーンによる分散管理など、まだまだやることがたくさんあります。
また、これからは、3DデータがゲームやVR、ARなどとも結びついていくでしょう。まさにこれからは「データ」が価値を生み出す時代なのです。私たちが責任を預かっており、富士ゼロックス(株)さんにも参加していただいている、文部科学省COIは2021年までの長期研究プロジェクトです。残りの期間を通じて、世界に誇れる成果を日本から海外に強く発信することがわたしの夢であり目標です。なお、慶應義塾大学は「FAV」を扱う世界で最大規模の3Dデーターベースfab3d.ccを運用しており、AI (人工知能)・ディープラーニングの活用も進めています。この分野は、いろいろなジャンルと結びつくことが、悩みでもあり、そして一番楽しい部分でもあると思っています。