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K-Direct 創造経営の実践
-イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す-
Vol.2 ファシリテーターの存在が変革チームにもたらすもの

富士ゼロックス株式会社 中央営業事業部
ビジネストランスフォーメーション営業部
コンサルティング1グループ
石間宏之

日々の仕事を、イノベーティブワークに変える。
そのためには、自らが変革プロデューサーとして行動することが求められます。
今月は、変革プロデューサーが仲間との共感をベースに目的を共有し、彼ら彼女らの主体性を引き出すための、ファシリテーションの方法論をお伝えします。

はじめに

企業の中で日々繰り返される会議。この会議について、次のような声を耳にする。「上司が部下を叱責する場」、「なにも決まらない」、「決まらないから繰り返される」、「決まったことにだれも納得していない」。あきらめ感すらただよう現状である。このような状況の中で、近年、ファシリテーションの方法論が注目されつつある。
筆者らは知識経営の分野で「ファシリテーション型のコンサルティング」によって、企業変革活動の支援を行っている。「変革プロデューサーと共に歩むパートナー」という立場で、有益な問いかけやアドバイスを提供しながら、彼らが自ら解決策を見つけていくことを支援する。このコンサルティングの現場で実践してきたファシリテーションの方法論の一端をご紹介する。

1. ファシリテーターは何者か

ファシリテーション、ファシリテーターという言葉は、ここ数年で企業組織の中で耳馴染みのある言葉になってきた。ファシリテーターとは、“facilitate”(~を容易にする。~を促進する)を行う人というのが元々の意味であり、「議論の進行役」という理解が一般的であろう。ただしその役割は、「議事に沿った司会進行役」という言葉から想像されるイメージよりも、多くの役割を担っている。その役割の主なものを挙げてみよう。

前向きな態度をキープする

会議で難しい問題を扱っている時に、参加者の多くは殺伐とした雰囲気を感じていることだろう。上位役職者からの叱責や、各担当の自己都合の主張に終始し、「はやく終わらないかな」という気持ちが参加者を支配してしまう。
ファシリテーターは、このような状況であっても、前向きな態度を保ち、参加者のモチベーションを維持・向上させることが、細かなテクニック以前の基本の役割である。

参加者の意見を引き出す

「ご意見をどうぞ」と言うだけで参加者の意見が引き出せるのであれば、そもそもファシリテーターという役割は必要ない。「言うは易し、行うは難し」の典型例であろう。
意見を引き出そうとして、参加者に問いかけているうちに、気がついたらファシリテーターの自分が意見を言っている、という状況になってしまいがちである。ファシリテーターは自分の意見を主張する必要はない。参加者への問いかけ、発言内容の確認のための質問、抽象的な内容に対する例示など、その場の参加者全員の理解が促進される投げかけをしつづけることが肝要である。

議論の時間管理を行う

ファシリテーターが行う時間管理には、二つの側面がある。一つは「想定した時間を守る」側面であり、もう一つは「状況に応じて、短縮や延長を考慮する」という側面である。
会議室の予約時間の関係で、議論が中途半端な状態で切り上げなくてはならない場面は、多くの人が経験している。そのため、ファシリテーター役となった際に、想定した時間を「厳密に守ろう」という思考が働くだろう。しかし、よい議論をしている最中に「時間がないのでそろそろ次に」といった割り込みは、参加者の熱意に水を差してしまうかもしれない。状況に応じて、「この議論はもう少し続けよう」とか、「この部分は想定よりも短く終えられそうだ」といった柔軟な思考で対応することが、ファシリテーターに必要な時間管理である。

目的が先、手段は後

議論が対立する典型的なポイントの一つが、どちらの案がいいかといった「手段の優劣比べ」である。お互いがそれぞれの利点を主張し、欠点をつつきあうので議論が収まらない。こんなときに、その手段はそもそも何を達成したかったのかという「目的」に立ち戻るための投げかけを行うことが、ファシリテーターの役割である。目的をもう一度、参加者全員で共有し、A案もB案も完璧な案ではないことを認め合った上で、それぞれのいいとこ取りをした新たなC案を作っていくための投げかけをしてみよう。

2. 変革チームにファシリテーターを迎え入れる

ファシリテーターは、無機質な司会進行役ではなく、状況をふまえながら参加者の発言を促し、議論の納得感を積み重ねていくという、人間臭い役割を担う。これは、前回のK-Directで触れた変革プロデューサーの役割とも重なる。変革プロデューサー自身がファシリテーターのスキルを身につければ理想的であるが、それが難しい場合は、変革チームにファシリテーター役を迎え入れれば、議論を活性化させ、活動の推進に大きな効果を発揮するだろう。

3. 会議からワークショップへ

筆者らは、企業変革チームにファシリテーターとして参加するときに、その会議を「ワークショップ」と呼ぶことにしている。会って話をするだけでなく、「参加者全員でアウトプットを作り上げていく」という思いを込めている。
会議という言葉にマイナスイメージがあるのであれば、意図的にワークショップと呼んでみることで、参加者の意識を少しでも変えることを心がけたい。しかし、方法論に基づかない名ばかりのファシリテーションでは、いつもの会議を繰り返すだけである。以降では、ワークショップの企画手順と実践方法について触れる。

4. ワークショップを企画する

ワークショップを実践するにあたり、以下のような手順を踏んで綿密に企画をしてから本番へ臨むことが重要である。

Step 1. 現状の共有、Step 2. 問題の特定

「問題は自明」という誤解

ワークショップ(あるいは今まで会議と呼んでいたもの)を開催するときには、広い意味で、なんらかの問題を解決したい、という動機がある。売上を向上させるにはどうしたらいいか、新商品をどう生み出せばいいのか、人材をどう活性化すればいいのか、など、解決すべき問題は無数にあるだろう。このとき、ワークショップの企画者として、一つの思い込みが生まれやすい。それは、「問題は自明であるが、解決方法が未知なので、それを見つけることが目的である」という認識である。解決方法が未知であることはその通りかもしれないが、「問題は自明である」という認識は、正しいといえるだろうか。たとえば「売上が落ちている」という問題を解くために、「売上を上げる方法を考える」ことから始まるワークショップを開催して、うまくいくだろうか。

現状を捉え問題の真因を探る

売上が落ちているという事実は、その企業組織にとって大きな問題であることは間違いない。しかしそれは、大きな問題であると同時に、表層的な事実でもある。売上が落ちているという表層の事実の裏に、どのような理由があるのかを知り、共有すること、すなわち、売上が落ちている真の理由(真因)をとらえることが、意味のある解決策につなげるために必要なことである。
ベテランの営業担当者であれば、理由など分かりきっているという認識かもしれない。しかし、その人にとっては分かりきっていることが、他のメンバーと共有されているかどうかがポイントである。個々人がそれぞれ異なる売上減少理由を念頭に置きながら、売上向上策を議論すれば、バラバラの意見が百出するだけであろう。
ワークショップの冒頭では、回り道のように見えても、現状の共有と問題の掘り下げ(真因の特定)から始めよう。複数のメンバーが捉えている事実は、決して同じではない。ファシリテーターとして、このステップの重要性をワークショップ参加者に説明することも必要である。

Step 3. 理想の共有

理想を共有する

問題の真因が捉えられたら、解決策の立案に移りたくなるところであるが、その前に理想状態(ゴールイメージ)を共有しておくことを強くお勧めする。理想を描かずに解決策を考えると、従来の価値観・考え方にとらわれた発想に留まってしまう可能性がある。問題の真因を捉えたはずなのに、やることはいつもと同じになりやすいのだ。
先ほどの、売上減少という例であれば、売上目標という具体的な数字が、まずは直近のゴールイメージになるかもしれないが、絵空事でもいいので、もう一歩二歩踏み込んだ理想を描きたい。たとえば「お客様と共に歩むパートナーになることが私たちの理想だ」というものでもよい。数値目標だけでなく、どのような組織に、どのようなプロフェッショナルになるのかという理想を描くことで、今までとは異なる高い視点でやるべき事(解決策)を議論できるようになる。

Step 4. 解決策のアイデア出し

解決策のアイデア出し

理想状態が共有できたら、その理想に向かって、問題の真因を踏まえながら、何をすべきかについてアイデア出しに移ることができる。いわゆるブレインストーミング(ブレスト)を行い、まずは質を問わずに数を出すことを心がける。
ブレストはよくやるが、大してよいアイデアはでない、という声を聞くが、それは、ブレストに至るまでの過程(これまでのStep 1から3)を踏まずに、いきなり「さあアイデアを出しましょう」というやり方になっているからではないだろうか。ここまでのステップを共に歩んできた参加メンバーであれば、「質を問わずに気軽にアイデアを出す」ということに対しても、構えることなく実践できるはずだ。しかし、現状の共有すら行っていない者同士では、「下手なアイデアを出して笑われたくない」という気持ちが先に立ち、活発なアイデア出しにはなりにくいだろう。

アイデアの絞り込み

ブレストで多くのアイデアが出た場合、それらを絞り込む必要がある。この時点ではじめてアイデアの質が問われる。非常にたくさんのアイデア(数十個以上)の場合は、メンバー全員の投票によってまず絞り、その後、実行可能性や効果の高さなどの指標で点数化して、優先順位をつける。実行可能性だけで選んでしまうと、小粒の施策だけになってしまい、結局やることは同じか、ということにもなりかねない。その施策が「理想に向かった解決策になっているか」という基準も大切である。

5. ワークショップを実践する

先ほど触れたStep1からStep4を考慮しながらワークショップを企画し、道具も準備できたら、いよいよワークショップの実践に移ることができる。本節では、実践時に役立つノウハウを紹介する。

「手書き」を活用する

ワークショップの実践にあたっては、まず、いくつか小道具を準備するとよい。
通常の会議室には、ホワイトボードやプロジェクターがあるが、創造的なワークショップを実践するためには、これだけでは不足である。
筆者らが常用しているツールは、貼ったりはがしたりできる付箋紙とサインペンである(写真1)。きわめてアナログなツールであるが、複数の参加者の意見を共有し、まとめていく際に、大きな力を発揮する。
また、デジタルカメラ(携帯のカメラでも可)も必須だ。筆者らのワークショップでは、参加者の意見が書かれたポストイットを壁に貼りながら進めるが、ワークショップ終了時にそれをデジカメで写真に撮り、その画像ファイルを参加者に共有している。これが、もっとも手間のかからない議事録となる。一見乱雑に貼ってあるように見える付箋紙の画像であっても、参加者にとっては、その場の雰囲気も含んだわかりやすい情報となる。

写真1 付箋紙とサインペン

パソコンで清書する必要があるときはそうするが、複数回に渡るワークショップの場合、毎回清書する必要はなく、最後に報告書をまとめる際に必要になる程度である。

手書きの利点

仕事の道具としてパソコンがあたりまえになった今、なぜ手書きを重視するのか、という質問を受けることがある。デジタルツールを使うことが先進的な働き方、というイメージが一般的のようだ。パソコンの普及により、整った文書を作成したり、複雑な計算を行ったりといった個人ワークは効率的にできるようになったが、問題を深く掘り下げたり、新しい価値を生み出そうとする、チームワークを発揮する必要がある創造的な仕事は、パソコンを使っても効率化はできず、かえって思考の邪魔になる、というのが筆者らの考え方である。手書きの付箋紙を参加者全員で壁に貼ったり、動かしたりすることで、内容が脳裏に刻み込まれ、実のある議論ができるようになる。
コラボレーションを促進することを目的としたシステムがあるが、使いこなしが難しく、高価でもある。付箋紙とサインペンは、創造的な議論をするために、安価かつ効果的なツールなのである。

席のレイアウト

通常の会議室は、テーブルが「ロの字」や「コの字」、あるいはスクール形式に配置されており、使う側もその配置のまま、なにも疑うことなく使っているかもしれない。

図1 席のレイアウトの例

ワークショップを実施する際に、筆者らはまず、どのような席の配置にするかを考える。多くの場合テーブルは必要なく、図1のように壁に向かって半円形に席を並べる形が多い。このような配置にする目的は、「参加者の一体感の醸成」にある。参加者には、「今、議論すべき対象」を常に意識していただきたいので、目の前の壁に貼ることになる手書きの付箋紙が見やすい位置、そして立ち上がって貼ったり動かしたりしやすい位置に座ってもらいたい。このようなレイアウトの工夫をするだけで、「今、全員が同じ内容を共有している」という一体感が生まれる。また、いつもとは違うレイアウトになっただけで気分が変わり、場の雰囲気が明るくなる効果もある。

アイスブレーク

かたい雰囲気をやわらげ、議論を活性化させる目的で、ゲーム的なものを行うことを、アイスブレークと呼ぶ(かたい雰囲気を氷に例え、それを溶かすという比喩)。アイスブレークは、特に初対面の人や、ほとんど話したことがない人同士のワークショップでは、忘れずにやるとよい。ワークショップの本題に入る前にアイスブレークをやっておくことで、お互いが「そんな堅物ばかりじゃないんだな」と認め合える機会を与え、無用な緊張感をやわらげる効果が期待できる。
どんなアイスブレークをやるかは、ファシリテーターがあらかじめ決めておけばよいのだが、筆者が心がけていることがある。それは、参加者を過度に子供あつかいしないことである。参加者が「子供あつかいされている」という気分になってしまうと、かえって場がしらけてしまうので注意が必要だ。ファシリテーターとして、はじめてアイスブレークを企画するのであれば、「他己(たこ)紹介」をお勧めする。二人ひと組になってもらい、お互いの仕事内容と趣味の話題(週末の過ごし方など)を2~3分で交換してもらい、その後、メンバー全員に向かって「私はこちらの○○さんを紹介します」という具合に、自分の相手を紹介する。「自己紹介」は、形式的なかたい雰囲気になりがちだが、他己紹介では「はじめて会ったこの人を、みなさんにしっかり伝えたい」という心理が、明るい雰囲気をつくってくれる。

議論のルール

ワークショップの参加者には、冒頭で「議論のルール」を共有しておくとよい。これは主に、前向きな議論を行うための態度を、参加者にお願いするものになる。図2にその例を示す。

図2 議論のルールの例

この例のようなルールを示すと、参加者から笑いが起こるかもしれない。その理由は、「いつもの会議がこのルールとまったく逆」だからである。“言うは易し、行うは難し”の、このルールを参加者に守ってもらうことも、ファシリテーターの仕事である。

否定形を肯定形に

議論のルールにも関係するが、前向きな議論を行うためには、「発言の言い回し」が大きく影響する。いつも否定形で発言する癖があると、「他者の意見を否定しない」というルールを守ろうとして、何も発言できなくなってしまうかもしれない。
しかし、多くの物事は、否定形でも肯定形でも表現できる(図3)。ワークショップ時は、意識して肯定形で話してみよう。それだけで、お互いが気持よく話せることに気づけるだろう。

図3 否定形を肯定形に

6. 一歩目を踏み出すために

ファシリテーションというと、その細かいテクニックに関心が行きがちであるが、そのテクニックを活かすためにも、ファシリテーター自身のマインドセットと、参加メンバーのマインドセットへの気配りが、根本的に重要である。
「マインドセットを転換せよ」という掛け声だけでは変えられないことは、誰もが知っていることであろう。そして、わかっていても変えられない、という自覚もあるかもしれない。そこであきらめることなく、本稿で示したいくつかのポイントを、一つでも二つでも、明日からのワークショップで試していただきたい。
ここまで述べてきたファシリテーション技術は、特別難しいことではないが、習熟のための実践経験が必要である。実践してみて初めて理解できるポイントも数多い。パソコンを使うよりも手書きの方が効果的である、という事実は、日々パソコンに向かって仕事をしている人にとっては、最初は信じられないことかもしれない。ポイントを押さえながら、継続的な実践をしていくことが、ファシリテーション技術の向上への近道となるだろう。

かつて、ピーター・ドラッカーは、著書「経営者の条件」の中で、以下の言葉を残している。

会議を成果あるものにするには、会議の冒頭に、会議の目的と、参加者が果たすべき貢献を明らかにしなければならない。そして会議をその目的に沿って進めなければならない。

上記のような信念なくして、会議(ワークショップ)を成功させることはできないという戒めとして、心に留めておきたい。

参考文献

創造経営の実践 バックナンバー

  タイトル
2014年1月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.1 変革プロデューサーの役割
2014年2月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.2 ファシリテーターの存在が変革チームにもたらすもの
2014年5月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.3 未来デザインの方法論 未来を洞察し具現化する手法の実践的活用
2014年7月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.4 自らの「目的」と「使命」を問い直す
2014年11月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.5 顧客への提供価値を考える方法論 デザイン思考の実践的活用
2015年2月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.6 小さなイノベーション大国 スイスの実践に学ぶ(前編)
2015年4月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.6 小さなイノベーション大国 スイスの実践に学ぶ(後編)

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