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K-Direct 創造経営の実践
-イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す-
Vol.3 未来デザインの方法論 未来を洞察し具現化する手法の実践的活用

富士ゼロックス株式会社 中央営業事業部
ビジネストランスフォーメーション営業部
コンサルティング1グループ
荒井恭一

企業を取り巻く環境が大きく変化し、現在、過去、未来が一本の線でつながらなくなった現在。10年前までは当然のように多くの企業に存在した「長期計画」がもはや存在感を失い、中期計画ですら毎年見直しが発生する状況に陥っている。私たちがこれからの未来を探り、進んでいくための効果的な方法はあるのだろうか。今回は変革プロデューサーの未来を観るプロセス、これを実現するプロセスの二つに焦点を置き、どの点を工夫していくのか具体的に紹介していきます。

はじめに

自らの具体的な未来像を描けなくなっていると嘆く組織が増えている。10年前までは当然のように多くの企業に存在した長期計画が存在感を失い、今や中期計画ですら毎年見直しが発生する。商品のライフサイクルはますます短くなっており、競争環境は厳しい。

少し前まで、先進国での産業や市場は「拡大する」ことが前提であった。その中で組織は成長しながら細胞分裂を繰り返してきた。市場と技術の性能(高度化)はほぼ比例関係にあり、技術者が守るべきはロードマップであった。このように企業が健全であるためにあたりまえのものとされていた作法が、この10年で音を立てて崩れた。

機能を拡張し性能を改善しても評価されないR&D、いくら調査を繰り返してもニッチな洞察しか得られないマーケティング、ポストが空かない、増えないので思うようにローテーションも登用もできない人事、めまぐるしい環境の変化に忙殺され、役員への資料づくりを繰り返す企画。社員の働きがいも大きな課題になっている。

過去-現在-未来が一本のなめらかな線でつながっていないとしたら、計画したことを未来に起こさせようとする「中長期経営計画」というものは、無駄な経営努力である。しかしながら、未来創出に挑戦するのが経営である。ここで問題となるのは、その確実性である。

経営学者 ピーター・F・ドラッカー氏(以下、敬称略)は、「われわれは未来について、二つのことしか知らない」。
「(1)未来は知ることはできない。(2)未来は、今日存在しているものや、今日予想しているものとは違う」と述べる。しかしながら、「未来を築くための仕事は意義があり、その目的は、明日をつくるために、今日何をなすべきかを決定することである」とも述べている。これは、現在こそが重要で、未来に備えよということである。未来へ踏み込むことは不可能だが、決定するのは今日の仕事である。

またドラッカーは、「すでに発生してしまった事象の未来における影響を見通すことはできる」と述べている。一定のタイムラグはあるが、人々の意識・知識等が変化すれば、その変化が次の変化をもたらす。比較的精度の高い変化、インパクトが大きい変化を体系的に見通し、事業機会とする経営努力は可能である。重要なことは、ドラッカーの言う「すでに起こった未来」を確認することだ。

このような背景を踏まえ、本章では、変革プロデューサーが未来を観るプロセス、これを実現するプロセスの二つに焦点を置き、私たちが彼らをサポートする中で実行している工夫を具体的に紹介したい。

1. 未来を観るレンズ

未来を見通すためには何らかのレンズが必要になる。どの程度先の未来を見通すのか、あるいはどの程度対象とするテーマが不確実なのかによって、使用すべきレンズは異なる。図1に代表的な三つのレンズを記載した。

図1: 未来を洞察するための主要なアプローチ

『フォーキャスティング』は、過去の蓄積されたデータを参照しながら、「未来は、確率○○%できっとこうなる」と考える決定論的なアプローチである。天気予報などをイメージするとわかりやすい。ただしこのレンズは、過去の延長上にある、比較的予測しやすい未来にしか活用できない。これに対して、『フューチャー・スキャニング』、および『シナリオ・シンキング』の2つは中期、長期での活用が可能である。現代のような変化の激しい社会では、非決定論的な多元的世界観で未来を見据えるアプローチが求められる。

フューチャー・スキャニング

『フューチャー・スキャニング』は、すでに起こった、もしくは起こりつつある未来を捕獲するための手法である。テーマオーナー(変革プロデューサーが所属する組織)が高齢化社会、モビリティ、住まい、教育などテーマを定め、その領域で先進的に取り組んでいる実践者をできうる限り多様に招き入れる。彼らの頭の中を未来として“スキャン”するところからこの名前がつけられている。
フューチャー・スキャニングのセッションでは、ファシリテーターの進行のもと、実践者同士が積極的に意見を交換し合い、触発しあいながら、考えていることを共有していく。すると、テーマオーナーにとって未知の、あるいは視点の異なるアイデアが断片的・発散的に共有、創出され、効率よく新たな気づきがもたらされる。

フューチャー・スキャニングの成果を決定づける要因のうち、主な要因の一つがゲストの選定である。既存の「有識者会議」と、フューチャー・スキャニングとの違いは、前者が比較的大学や企業などの研究者を中心に構成されるのに対して、後者はセクターや産業を横断した実践者で構成されることにある。なぜ、研究者ではなく実践者を招へいするのか。一つには、最新の知は現場に、実践の中にあるからである。また、実践者の多くは、オープンマインドである。自らの経験を、失敗も含めて躊躇なく語ってくれる。さらに重要であるのは、実践者の「他者の考えを積極的に聞き入れる姿勢」である。彼らにとって知識は勝ち負けではなく、自らの未来を少しでも良くするための貴重なヒントとなりうるからであろう。

このように混成の実践メンバーをセッションに迎えることで、新たなアイデアが創発されやすくなり、参加者の経験や知識の総量を超える新鮮な「知」をテーマオーナーもゲストも持ち帰ることができる。これこそが、フューチャー・スキャニングの最大の魅力であろう。
もう一つの成功要因として、ホストであるテーマオーナーの組織メンバーをいかに参画させるかという点があげられる。私たちは対話を行うゲストの周囲に、彼らの席を多数用意している。限定的ながら対話に参加する機会としてオブサーブ参加を促す。ゲストの話に魅了され、創発的なアイデアに刺激を受けた彼らの一部が、その後の活動をけん引する存在となる。

シナリオ・シンキング

『シナリオ・シンキング』は、変化を生み出す深層要因を洞察し、未来の展開について複数の仮説(未来シナリオ)を立て、それらに基づいて意思決定や判断を行う戦略策定手法である。起源はスタンフォード・リサーチ・インスティテュート(SRI)やロイヤル・ダッチ・シェルなど、企業の経営企画部門が行っていた手法にある。この手法の最大の要点は「予測しない」ことにある。未来は不確実であり、石が転がるがごとく、どちらに向かうかは分からないのだから、その起こりうるすべてに備える必要があるとシナリオ・シンキングでは考える。
具体的には図2のとおり、テーマに関して、今と未来で変化している可能性がある要素を可能な限り発散的に洗い出していく。

図2: シナリオ・シンキングにおける軸と世界観を描くプロセス

社会的(S: Social)な側面、技術的(T: Technological)な側面、経済的(E: Economical)な側面、環境的(E :Environmental)な側面、政治的(P: Political)な側面から、自らではコントロールできない事象や傾向を可能性として抽出する。(5つの側面の頭文字をとって「STEEP」と呼ばれている)これらの中から不確実性が高く、かつ組織や社会にとってインパクトが大きな要素を選択して軸とすると、4つの世界観(未来シナリオ)が構成される。

この4つの未来シナリオは、現段階では等しく起こる可能性があるわけだが、自組織にとってやや想定しにくい、あるいは起きてほしくない未来像については、備えが十分でないことに気づくかもしれない。起きるか起きないかの議論をやめて、これらを前提として準備を進めていくことが、このシナリオによって可能になるのである。

現在、シナリオ・シンキングに関する専門書は多数存在しており、試行的に取り入れた経験のある組織も増えてきている。しかしながら、大半の組織は途中で検討をやめてしまったか、継続する意志が持てずに頓挫してしまう傾向にあるようだ。私たちはシナリオ・シンキングの成否を決する要因の一つは、検討プロセスの閉鎖性と重さにあると考え、実践の中で工夫をしている。

具体的には、シナリオづくりのプロセスをできる限りオープンに、できる限り短期で実行していくことを重視する。過去のトレンドや分析データなど、数値化して合理的に説明するものと違い、未来シナリオを検討チームの外へ伝えていくことはそれほど容易なことではない。客観性を保ちにくく、人によっては好き嫌いが出てしまう可能性があるからだ。そこで、私たちはこのシナリオづくりのプロセスをできる限りオープンなスタイルとすること、また、シナリオはあまり厳密で詳細な精度を求めずに、ラフに試作することを提案している。

100%納得していない状態であっても、シナリオの原型ができたところで、40人程度の共有セッションを複数回開催する。検討チームは説明に苦慮しながらも、シナリオに描かれた世界観が今とどう異なるのか咀嚼して伝える。否定的な意見を受けることもあるが、微修正を加え、伝え方のスキルを身につけるうちに、次第に「共感できる」というコメントをもらえるようになってくる。このように、他者のフィードバックを経ながら完成度を高めていくことは、広くシナリオを共有するうえで大事である。
このフィードバックプロセスに関わったメンバーは社内外問わず、今後の活動の協力者となってくれる可能性が高まる。

2. 未来を実現するプロセス

多様なレンズを活用しながら、新たなアイデアやテーマを獲得したならば、ただちにその実現に向けて活動を開始することが重要である。しかし、未来シナリオは長期的な活動であり、目標設定があいまいになりがちであるため、迅速に、俊敏に形作ることが難しい。
そこで私たちは、デザイン思考のプロセスをこの未来創出の活動に取り込み、俊敏さを失わせないよう工夫をしている。
しかし、未来テーマに対して、デザイン思考をそのまま取り入れることは、次の点で困難がある。デザイン思考では第一に特徴的な生活者に着目し、ニーズに関する洞察を得る。第二に技術の実現性、市場への影響度をプロタイプによって検証する。しかし、未来の存在である生活者に着目し、技術や市場を未成熟な状態で検証するには工夫が必要になる。そこで私たちは実践的で俊敏なデザイン思考のプロセスを未来創出に活用するため、写像ターゲットと呼ぶ方法論を採用している。

写像ターゲット

デザイン思考の最初のプロセスは、リードユーザーとの接触・観察から始まる。未来シナリオでは、現代とは状況が異なる20~30年後の社会に向けて、製品やサービスを具現化するため、観察対象のリードユーザーとして、「写像ターゲット」を疑似的に設定する。(図3)。

図3: 写像ターゲットの考え方

写像ターゲットは、「将来の主要な価値観やニーズとなりうるものは、現時点でもその断片がすでにどこかで立ち現われている」と考える手法である。
たとえば、「モノを所有せずに、他人とシェアすることがあたりまえとなっている」将来世界を想定する場合、写像ターゲットでは、この社会像に結び付く現代のリードユーザーとして、三つのパターンを想定する。まず、「A:誇り高く、持たない主義者」と「B:持ちたくても持てない生活者」とに分類する。Bはさらに、「B1:貧しくて持てない」のか「B2:移動型(ノマド型)の暮らし方であるために持てない」のかに分類する。背後にある価値観が異なるパターンを想定し、選定することで、現代で対象者を探す手法である。

2~3年ごとの市場化

未来を実現するプロセスとして、もう一つ重要であるのが、断続的な市場創出の仕掛けである。現在まったく存在しないか、あるいは存在してもきわめて小さな市場が、時間を経て大きな市場を形成する場合、主体となる事業者が継続的に市場への働きかけを行っているケースが多い。
そこで私たちは図4にある“物語”“体験”“市場化”といった三種のプロトタイプを連動させ、2~3年を1クールとした「市場化」の実行を推奨している。

図4: 2~3年を1クールとしたプロトタイプ3種

市場化とは、プロトタイプと呼ぶ試作品を通じてアイデアを伝え、関係者からの共感や評価を獲得する活動である。具体的には、ターゲットユーザーの価値や便益をストーリーとしてプロトタイプする「物語プロトタイプ」、技術としての作り込みを確認する「体験プロトタイプ」、市場やユーザーグループ、社会からの反応を獲得する「市場化プロトタイプ」の三種がある。
後に進むにつれて、変革プロデューサーは社内の各部署を説得する必要が高まり、抵抗を受ける可能性が増す。この抵抗を乗り越えるために、プロジェクトチームはある程度の裁量を獲得しておく必要がある。

3. 情熱を持続させる

以上、未来を観るプロセスと未来を実現するプロセスについてご紹介した。二つのプロセスを、マネジメントとしてはどのように関与、支援すればよいのだろうか。不確実で予測できない未来と向き合うことの困難さに加え、この活動を長期間継続させなければならないことが未来創造活動の難しさを際立たせる。企業組織はこれまで、長期的な仕事をできる限りパターン化し、短期の目標と連鎖することで、小さな成果を継続的に生み出しやすくして、活動継続のモチベーションを維持させてきた。未来を創出するという本章のテーマでも、情熱を持続する重要性はまったく同様であり、前節で述べたようなプロトタイプを繰り返し、技術や市場、ユーザーといった複数の側面からのフィードバック獲得を連続的に進めていくことが求められる。

これとあわせて、難易度の高い活動に取り組んでいることを、周囲が評価、認知することも大切である。とくに注意して、評価・認知されるべきなのは、主体者よりも協力者の方であろう。主体的に検討しているメンバーは、活動の特殊性から、組織内で認知されやすい傾向があり、周囲の理解もあって様々な配慮を得られやすい。一方で、彼らをサポートする立場の協力者はどうか。彼らの多くは、主体者とは異なる部門にいて、現業を抱えながら、不確実で成否が分かりにくい業務を支援する立場にある。主体者よりも時間的な制約が強く、短期的な成果創出を優先せざるを得ない状況もある。
主体者が単独で未来創出を担うことはほぼ不可能である。私たちはそれゆえ、とくに協力者に注目し、彼らが積極的に未来創出の活動に関与できるよう、マネジメントにサポートを求めている。

4. 適切なよい目標をおく

そもそも、20~30年後といった超長期構想を検討すること、あるいはR&Dの超長期のテーマを創出することはきわめて難易度の高い挑戦的な活動である。そのためか、この種の活動は楽しく夢を大きく描こう、というポジティブではあるが現実離れしたトーンが前面に出すぎる傾向があるようだ。しかしこれでは、組織を活性化させるための風土改革活動にとどまり、超長期構想としての成果にはなりにくい。

このようなケースで私たちが工夫しているのは、“適切なよい目標”をお膳立てすることである。大抵の組織には、その組織が社会に存在する価値を定めた、普遍性のある理念や社是、ミッションステートメントが存在するはずである。

一方、日々管理される目標は前述のとおり、きわめて短期的なタスクのみで支配されている。超長期構想やテーマ創出とは、まさにこの両者のギャップを埋めるためにあるものである。つまり、超長期構想やテーマの創出は、組織にとっての理想的な側面と現実的・実践的な側面を併せ持つ必要がある。そして、理想と現実・実践をいかに両立させるか、その“適切さ”は組織ごとに異なるものである。

例えば、「特定の社会問題を解決する」、「既存のものとは異なる新たな収益のモデルを創出する」、「この原材料を使って何かを生み出す」など、理想とするものを掲げながら、現実や実践として優先すべき領域を起点とする。目標は具体的に規定(本業とはシフトさせた方向で)する。

一方で、アプローチや進め方は、チームの裁量に委ねるなどのお膳立てによって、検討チームに情熱を持たせ、かつ、成果への帰結に責任感を持たせることが可能になる。

参考文献

創造経営の実践 バックナンバー

  タイトル
2014年1月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.1 変革プロデューサーの役割
2014年2月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.2 ファシリテーターの存在が変革チームにもたらすもの
2014年5月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.3 未来デザインの方法論 未来を洞察し具現化する手法の実践的活用
2014年7月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.4 自らの「目的」と「使命」を問い直す
2014年11月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.5 顧客への提供価値を考える方法論 デザイン思考の実践的活用
2015年2月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.6 小さなイノベーション大国 スイスの実践に学ぶ(前編)
2015年4月 K-Direct 創造経営の実践 -イノベーティブワークによって魅力ある会社を取り戻す- Vol.6 小さなイノベーション大国 スイスの実践に学ぶ(後編)

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