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勝つための組織作りと人材育成

2007年5月

岡田 武史 氏元サッカー日本代表監督
岡田 武史 氏

富士ゼロックス神奈川株式会社 主催「第7回VIPセミナー」より
構成・文:X-Direct事務局

岡田 武史 氏プロフィール
1956年大阪市生まれ。早稲田大学政経学部卒。元横浜F・マリノス監督。元コンサドーレ札幌監督。元サッカー日本代表監督。大阪・天王寺高校3年生で日本ユース代表に選ばれ、大学3年で大学選抜に選ばれ優勝。ベストイレブンに選ばれ、ユニバーシアード代表に。1980年古河電気工業(現・ジェフ市原)に入社、DFとして活躍。1985年同リーグ優勝。また、1980〜1985年日本代表。1990年引退後、古河電工コーチ。ドイツへのコーチ留学を経て、1995年日本代表チームのコーチに。1997年W杯フランス大会アジア最終予選中に日本代表監督に就任。史上初のW杯本大会出場を果たした。1999年J2のコンサドーレ札幌監督に就任。2000年J2優勝、2001年J1に昇格。日本プロスポーツ大賞(1997年)、北海道新聞スポーツ賞(2000年)など受賞。J1横浜Fマリノスでは、2年連続でリーグ戦制覇を成し遂げた。

コンセプト/考え方

日本代表チームを率いてフランスワールドカップに出場し、また横浜Fマリノスを2年連続J1優勝に導いた名将・岡田武史氏。これまで幾多のサッカーチームを作り上げてきた経験から、「勝つための組織作り」や「人材育成」について、その考え方や方法論を語ります。

index
1 楽しむ心が躍動を生む
2 選手が育つのを邪魔するな
3 コミュニケーション――相手を認め、お互いに認め合う
4 私心の無い決断が監督の仕事
1

楽しむ心が躍動を生む

岡田 武史 氏チームや組織を作る場合には、まずメンバーを同じ方向に向かせることが大切です。そのためには、目標を設定することが必要となりますが、シーズン最初のミーティングで、ただ「優勝を目指す」と言うだけではダメなんです。選手たちは下を向いたままで、聞いているのか聞いていないのかわかりません。僕の場合は、あえて対戦相手をAランク、Bランク、Cランクと3つに分けます。それで「Aランクに対しては勝率何割で勝ち点いくつ、BランクCランクも勝率何割で勝ち点いくつ、トータルで勝ち点がこれだけで優勝」と話します。もちろん半分ハッタリですよ。でもこういう具体的なことを話すと、選手たちがパッと顔を上げて、興味を示すんですね。これが大切です。単に目標を言うだけではなく、最初にグッと選手を掴めるかどうかというのが、勝負になります。

次にチームのフィロソフィー、つまり哲学を作りあげます。これはそれぞれのチームのレベルや置かれている環境によって違うのですが、2003年に横浜Fマリノスの監督になったときに揚げたフィロソフィーがこれです。

テーマ:Enjoy、Thinking by Yourself、Concentration、Aggressive Play キーワード:Communication


「Enjoy」とは、サッカーを始めたときの楽しむ心を忘れてくれるな、ということ。選手は、Jリーグに入ってしばらくすると、「ミスしたくない」と守る気持ちが強くなりがちです。でもサッカーはミスの競技なんです。ミスを恐れてオドオドと腰が引けたようなプレーは絶対にして欲しくない。そういう意味で「Enjoy」と言っています。

僕が1999年にコンサドーレ札幌の監督に就任したときは、ちょうどチームがJ2に落ちた後でした。そのときは、「すぐにJ1に上げる。それもさすが元代表監督の岡田だと言われるようなサッカーで」などと考えていました。なんと傲慢で驕り高ぶっていたことでしょう。そして選手には「これが世界に通用するサッカーだ」と、理想のサッカーを要求しました。ところが、選手たちにはそこまでのレベルはなかった。それにも関わらず僕は1年間、レベルの高すぎる要求をし続けて、結果はJ2で5位でした。そのシーズン後いろいろと考えて、「ああ選手たちは、できないことを俺に要求され続けて、苦しかったろうな。俺はなんとひどいことをしたんだろう」と気づいたのです。それから僕にとっての理想のサッカーとは、選手が目を輝かせて生き生きと躍動するようなサッカー、選手が持っている力を100%出せるサッカーへと変わったのです。

2

選手が育つのを邪魔するな

2つ目の「Thinking by Yourself」は、まず自分で考えてくれということです。自分で考えるのがサッカーなんです。
準備運動のときに「全員で声を出せ」と、コーチが指示しても、声を出しているのは半分くらいなんてことがあります。「なんで声を出さないんだ?」と訊くと、「誰かが出すと思って……」との答え。ならば全員がそう考えて、誰も声を出さなかったら、どうなるんだと。

また、試合中に上手くいかなくても、監督やキャプテンが何か考えてくれるだろうという選手もいます。でも「お前がやるんだ。お前のチームだ。お前ら一人ひとりが考えて何とかするんだ」という意識を持ってくれということです。みんなが自分のテリトリーのことしか考えられないのではダメです。しかし、みんなが全体を考えるようになったとき、組織というのは本当に強くなります。

選手の育成についても、よく「コーチが選手を育てる」と言いますが、そんなのはおこがましい。「育つのを手伝う」どころか、いや「育つのを邪魔するな」と言っています。以前、攻撃は上手いけど守備が苦手な選手に、守備の練習ばかりやらせたことがありますが、うまく伸びなかった。翌年は「攻撃をしっかりやれ。そのかわり側に守備のできる選手を置いてカバーさせる」というフォーメーションにしたところ、いつのまにかその選手も守備を自発的にするようになったのです。つまり僕は不得意な部分ばかりを教えるあまり、選手が伸びようとするのを邪魔していたんじゃないかと。よけいな手をかけたことが、かえって成長を邪魔していたことに気がついたんです。

それからは、僕は「選手が伸びる邪魔をするな。育つ、育てるよりも、気づく、気づかせるほうが大事だ」と言っています。ただし完全に放っておくのはダメです、日本人は。日本人は小さいころから社会制度の中で、教えられることに慣れ、人に学ぶことに慣れ、頼ることに慣れている。日本人の良いところでもあり、悪いところでもあります。日本人は学ぶことが大好きなので、完全にフリーではダメなんです。

3

コミュニケーション――相手を認め、お互いに認め合う

3つ目が「Concentration」(集中)。集中して質の高い練習をすることと、ひたむきに戦うという意味を込めています。人の心を一番うつのは、人にどんな風に見られているかなどということを捨てて、チームが勝つために、ひたむきにプレーしている姿なんです。

マリノスに最初に行ったときに、選手たちがTVのカメラの前で、「今年は優勝します!」と話しているのを見ました。それは結構だけど「優勝します」と言うだけで優勝できるなら、こんな簡単なことはない。優勝するためには何をしなければいけないのかと。選手にできるのは3つのことしかありません。「日ごろのコンディション管理」と「集中したすばらしい練習」、それと「ベストなプレー」。この3つをおろそかにして、遠くを見て「優勝します」なんて冗談じゃないよと。練習もきちんとできないでいうなと。まずは、今できることをしっかりやってくれということなんですね。

岡田 武史 氏


4つ目のテーマは「Aggressive Play」。これはもう簡単なことで、いったんピッチに入ったら、目の前の敵にぜったい負けるなということです。自分がボールを獲られたら、自分で取り返すという強い気持ちを持って欲しい。勝負にこだわって欲しいのです。勝ち負けがなかったら、それはレクリエーションです。スポーツはある意味、勝ち負けです。勝ち負けがあるからには、勝つことにこだわらなければならない。しかし、何をやっても勝てばいいということではない。ベストを尽くしても失敗や負けることはあります。負けちゃいけないわけじゃない。でも勝つことにこだわって、ベストを尽くさなきゃいけないということなんです。

そしてキーワードとして挙げた「Communication」。これが一番、組織作りにおいて大事です。ここで言うコミュニケーションとは、相手を認める、お互いを認め合うということです。別に頻繁に面接するとか、そういうことではありません。監督の場合は、チームスタッフのマネジメントと、選手のマネジメントの両方をやらなければなりません。僕はこれを使い分けています。

チームスタッフは、監督の手の届かないところを補ってくれる存在です。そのためスタッフとは本当に密にコミュニケーションをとります。年に二回は家族を全員招待して食事会やって、ビンゴ大会でいい景品をだす。これはすべて自腹です。彼らスタッフが良い仕事をしてくれることが、チームの勝利につながります。そして彼らが勝たせてくれたら、僕の給料も上がるというわけですが……。そういう気持ちでやっていました。

一方で僕は選手と一緒に飲みに行きませんし、家族を招いたりもしません。選手とは、ある一線を引くようにしています。いざ外さなければいけないときに、とても「クビ」とは言えなくなりますから。
じゃあ、どう接するか。選手たちには、練習のストレッチ中などに「この間の練習では、すごいシュート打ったな」とか話すわけです。すると「お、監督は俺のことを見てくれてるんだな」となるわけです。選手は自分のことを認めてほしいと思っていますから「僕は認めているよ」と伝えることが、選手との「Communication」なんです。

また、チームに30人もいれば、選手同士で相性の良い、悪いがあります。これは仕方ないことですが、それでもお互いに認め合うことが重要です。これが、チームワークということなんです。

4

私心の無い決断が監督の仕事

こうしてフィロソフィーができたら、それを基にしてチームのベース(基礎)を作ります。基礎がぐらついていたら、どんな立派なビルでも倒れてしまいます。基礎がなければ、どんなに世界に通じるサッカー戦術をしようとしても、簡単に崩れてしまうんです。

そのベースの一つはプロフェッショナリズムを浸透させること。例えばサッカーでは、インターバルトレーニングというスタミナを増すための反復練習を行ないます。練習直後は疲労し、選手の技術、体力レベルは一時的に落ちます。しかしこの後に十分の休養と栄養を取ることで、トレーニング前のレベルより、少しだけ高いところまで回復します。これを超回復といいますが、我々はこの超回復の最大の効果を狙って、トレーニングメニューを作るわけです。

超回復


ところが選手が練習後にカラオケで遊んだりして、十分に休養と栄養を得られないまま、また翌日に練習したとします。するとオーバートレーニングになって、超回復どころか、かえって技術、体力レベルは落ちてしまうんですね。プロというのは、練習だけでなく、休養と栄養を取ることを含めて自分を管理しなければなりません。そういう意味でプロフェッショナリズムということを、徹底的に言います。

オーバートレーニング


そしてベースの二つ目として、チームモラルを構築していきます。例えば、フィジカルトレーニングで、グラウンドの四隅にコーンを置いて、その外側を走れと指示します。そうすると、最初のころは3分の2ぐらいの選手が、コーンのちょっと内側を走るんですね。「おいちょっと待て、コーチはコーンの外側を走れと言わなかったか?」「コーンの外も内もたいして変わりません」「変わらないんだったら外を回れ」と監督が一喝します。3ヶ月くらいすると、全員外側を回るようになります。もし内側を走ったとしたら、他の選手から「お前、何やってるんだよ!」と言われるようになります。自然と外側を回らないといけないようにする、これがチームモラルです。

ここまでくれば、監督の仕事は一つだけ。決断するということです。どこでどんな手を使うかということを、最終的に決断するのが監督です。全員が反対していても、監督が違う決断を下すこともあります。それだけに、ものすごく怖いことです。しかも答えに正解はないわけです。

よく、勘だけですぐに決断する監督がいますけど、これはいい結果につながらないことが多い。また考えた末に最後に吹っ切れない人。これも上手くいかない。僕は決断を下すのが、かなり遅いんですよ。苦しんで、苦しんで、締め切りぎりぎりまで考えて、最後に開き直る。答えがないことを責任もって決断しなければならないときには、開き直りも必要です。これは、禅でいう“平常心"に似ているんですね。人間にはいろいろな「捕らわれ」がある。負けたらどうだとか失敗したらどうだとか、そういう「捕らわれ」を全部捨てた時の心境が平常心だと思います。この気持ちになれるかどうかの鍵は、どん底を知っているかどうかということでしょう。経営者の方でも、闘病経験があったり戦争経験のある人は強いと言います。それはどん底を経験しているからです。

また監督が決断するときに一番大事なのは、私心を持たないことです。私心があると、選手にもわかってしまうんですね。選手一人ひとりには愛情を持っていますが、メンバーを決めるときには、それは関係ない。決断の基準は自分がどう思われるかではなく、チームが勝つため。それだけです。1998年フランスワールドカップの日本代表選考のときにカズ(三浦知良選手)を外したのもそうです。あのときはカズも相当に頭にきただろうと思います。僕のことを許せなかっただろうと。しかしカズとは、いまだに付き合っています。それはカズに、そのときの決断に私心がなかったことが伝わっているからだろうと思います。僕はカズのことが好きだったし、尊敬もしていた。しかし僕は代表の監督だった。それだけのことです。
サッカー監督とはそういう仕事で、私心なく決断をしなければならないのです。

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