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ある新任マネジャーの悩み
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吉永一郎(仮名)さんは、バブル期に入社して17年。今年はじめてマネジャーになった。マネジャーへの昇格は、同期では早い吉永さんだが、ホンネではマネジャーにはなりたくなかった。なぜなら、担当者として仕事をしていた頃は生き生きと活躍していた先輩が、マネジャーになったとたん、その人らしい輝きを失ってしまう例をいくつか見てきたからである。
吉永さんの部下の一人は、入社した頃には、よく飲みに連れて行ってくれた先輩である。その他、入社8年目の女性、入社2年目の男性、事務的なサポートをしてくれる派遣スタッフ合計4名が部下である。多様なメンバーであり、自分が若い時についていた上司のような管理統制型のマネジメントでは、なかなかうまくいかないのはわかったが、どうしたらよいかの答えはない。
それでも、マネジャーに昇格した当初は、自分としても張り切っていた。しかし、上司や他部門との調整、先輩への遠慮、若い部下との考え方の違い、プレイングマネジャーとして自分のやるべき業務など、諸々のことと向き合いながら毎日を過ごしているうちに、最近は疲れが溜まり、モチベーションも下がってきてしまった。自分なりのマネジメントの方法もまだつかめておらず、メンバーとの信頼関係も築けていない。このままではマネジャーとして失格だと思う毎日である。
あるとき、同期の友人と飲みに言って、そんな愚痴をこぼしていたら、「お前はいいよ。俺なんか、ここ数年昇給はほとんどなしで、ここから先、給料は変わらないのが見えてきちゃったんだぜ。もう年齢的に転職も難しくなってきたしなあ……」などと言われてしまった。「俺だって好きでマネジャーになったわけじゃないよ」という言葉を飲み込んだ吉永さんだった。 |
この事例は、最近のマネジャーのおかれた環境を示す一例だが、現在のマネジャーを取り巻く環境は、一昔前のそれと比べて様変わりしている。メンバーは多様化し、年上の部下をもつマネジャーも多い。若い社員は入社3年で3割が辞める時代と言われ、以前より会社や上司に対する忠誠心も低い。また、組織はスリム化し、マネジャーといえどもマネジメント業務だけではなく、自分でも担当業務をもっているのがあたり前だ。さらに、成果主義の導入で、担当する組織の成果だけではなく、メンバーへの評価に対するストレスも多い。ホンネではマネジャーになりたくない人がいるのも無理もない。
過去10年は「自己責任」をキーワードに、企業内教育でも教育メニューの選択制を導入する企業が多かった。しかし、その結果、組織のコアになるリーダーが本当に育ってきたのかという危惧を持っている企業も多く、最近は階層別教育、マネジメント教育を見直す流れもある。
では、いったいどのようなマネジメントが求められているのか。従来の管理統制型のマネジャーとは違うスタイルのマネジメントが求められていることはわかるが、具体的にどのようなマネジャー像かがはっきりしないのも現実である。次章以降では、富士ゼロックス総合教育研究所が行なった調査*の結果も交えながら、現在の企業の組織風土・体質的な問題を踏まえ、組織パフォーマンスを高めるマネジメントのあり方やこれからのマネジャー育成の視点を考えてみたい。
* 調査結果は、以下のページよりダウンロードいただけます。
「組織パフォーマンスを高める人事・人材開発」に関する調査報告サマリー
(株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所:2006年11月)
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企業をむしばむ4つの組織機能不全シンドローム
――「一体感欠落」「不完全燃焼」「慢性疲労」「実践不足」
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健康な人とそうでない人がいるように、組織にも健康な組織とそうでない組織がある。業績は少しずつよくなってきているが、「最近、組織の活力がないなあ」と感じ、危機感をもつ経営者は少なくない。いくらビジョン・戦略が優れていても健康で活力ある組織でなければ、それを実行する力強いパワーが発揮できないからである。
そこで、自分の組織の健康状態を検討する尺度ができないかと考え、組織機能不全シンドローム(症候群)の仮説を立てた。その仮説をもとに、18項目の設問にし、「7.全くその通り」から「1.全くあてはまらない」の7段階の選択肢で、民間企業の人事・人材開発担当者に聞き、因子分析という統計解析手法で、18項目がどのように要約されるかを検討したのが下の図1である。

図1:企業の風土・体質の問題 因子分析結果
固有値1以上の因子を抽出したところ、まず第1因子は、「組織としての一体感が感じられない」「トップの考え方が伝わりにくい」などの相関が高く、「一体感欠落症候群」と名付けた。次に、第2因子は、「本音で意見をぶつけ合う雰囲気がない」「困難な状況で食い下がる雰囲気がない」などとの相関が高い因子が抽出され、「不完全燃焼症候群」と名付けた。そして、「結果管理になっておりプロセスの障害に手が打てていない」などと相関が高い第3因子「実践不足症候群」、「社員の疲労感が強い」などとの相関が高い第4因子「慢性疲労症候群」を加えた4つの因子が、企業の風土・体質上の問題因子として導き出された(先に紹介した調査報告サマリーでは12ページ)。
参考値として、企業業績の自己評価によって風土の特徴の違いがあるかどうか、統計的に検討した結果、業績のよしあしに関わらず、「慢性疲労」傾向があり、業績が悪い企業ほど「一体感不足」「不完全燃焼」「実践不足」の傾向があることが示唆された(前述の調査報告書サマリー 13ページ)。
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求められるミドルマネジメント像(調査結果から)
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前述のように組織の風土・体質面に問題を抱えている企業であるが、今後どのようなミドルマネジャーが求められているのであろうか。「部下をもつ部門長」と「部下をもつ課長・係長」に分けて、聞いた結果が図2である。

図2:マネジャーの行動の重要度(階層別)
(クリックすると拡大して表示します)
調査結果を見ると、部門長で重視されたのは、「自部門(課)のめざす姿を明確に描く」(「特に重要(以下同様)」39.4%)「自社の独自性や強みが発揮できる戦略を打ち出す」(25.8%)「全社的な理念・ビジョンに沿った言動を自ら実践する」(23.5%)「全社的な戦略や方針を自部門(課)の業務に落とし込む」 (18.6%)などであった。部門長には、組織のベクトル合わせに対する期待が伺われる。
一方、課長・係長層で重要な行動は「目標に対する納得感を高め意欲を引き出す」(29.4%)「メンバーの仕事ぶりに対して、公正に評価する」(21.7%)「メンバーの長期的な成長を考えて、仕事を割り振る」(15.4%)「全社的な戦略や方針を自部門(課)の業務に落とし込む」 (15.4%)「メンバーが抱える課題解決を支援する」(14.5%)などであった。課長・係長層には、現場におけるメンバーの支援・指導が求められている。
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組織パフォーマンスを高めるための視点
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組織の風土・体質面の問題と、求められるマネジャー像について概観したが、今後組織のパフォーマンスを高める上で、どのような視点をもったらよいだろうか。調査の結果を踏まえて、我々は、組織パフォーマンスを高める上で重要な3つの視点を提案している。

図3:組織パフォーマンスを高める視点
- 意味の探求(バリューマネジメント)
成果主義の導入でメンバーの関心は自分の役割、評価に向き、役割は違っても目的は一つだということを忘れがちである。そのような状況を反映し、調査結果では、部門長クラスには全体の目的共有や方向付けが期待されていたのも事実である。冒頭の吉永さんの事例にあるように、これからのマネジャーには多様なメンバーの組織に対するロイヤリティを高めていくことが求められている。
組織の目的の共有や対話によって、個人がそこにいる「意味」が実感できる「場」をつくることがまず必要である。
- 可能性の追求(ポテンシャルマネジメント)
「社員の疲弊感が強い」「後継者の育成が進まない」という体質・風土の問題の背景には、「信頼関係の醸成」や「相互の支援」といった、組織のベースとなる重要なことがおろそかになっている可能性がある。日本企業が大切にしていた「人」を大切にする思想を再認識し、個人が自分の仕事・自分の成長だけに本気になるのではなく、組織の目指す目的に対して本気になれるような工夫が重要であろう。人と組織の可能性を最大化させるような働きかけが求められている。
- 実行力の強化(パフォーマンスマネジメント)
計画を実行すれば成果が出る時代ではなくなった。実行段階での課題に、現場で対処しながら、きっちり成果を残すことが求められている。計画の進捗を管理し、先手、先手で実行すると同時に、プロセスでのノウハウやナレッジを蓄積して今後に生かすことも求められている。単にきっちりと実行するだけでなく、プロセスで成し遂げたこと、学習したことを組織内に残すことで継続性を実現することが求められている。
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新しい時代のマネジャー育成に求められる要素 |
組織パフォーマンスを高めるための視点を日常で実践するために、今後のマネジャー育成に求められる要素はどのような点だろうか。4つの観点でまとめてみたい。
5-1. マネジャーとしての原点を理解し、自分らしい軸をもつ
マネジメントの原点は、人を大切にし、メンバーが生き生きと活躍する活力ある「場」をつくり、それによって、メンバーの可能性を引き出しながら、一つの目標に向かって成果を残していくことである。そのような原点が押さえられていなければ、マネジメントの基本であるPDCAも、マネジメントの高度な手法もうまく機能しない。この点の理解が十分でなかったために、うまくマネジャーの役割を実践できない人、自分はマネジメントが苦手だと思いこんでしまう人は多い。
また、多様な個性を持ったメンバーを生かすためには、マネジャー自身が自分らしく生き生きしている必要がある。だから、マネジャーだからといって、自分らしさをなくす必要はない。逆に、自分らしいマネジメントの軸を持ったリーダーはパワフルで、一貫性があり、それはリーダーとしての魅力となり信頼につながる。そして、その軸が自分を生かし、他者を生かし、個人ではできない素晴らしい成果を残せるリーダーに成長する出発点となる。以上のようにマネジメントの原点をおさえることが、マネジャーとして力を発揮する基本となる(図4)。

図4:マネジメントの基本
5-2. 自社の「らしさ」を再認識し、メンバーと思いを共有する
雇用環境が変化し、転職もめずらしくなくなった今、メンバーは自分の人生の大切な時間を使って、この組織で働くことにより、どんな風に社会の役に立てるのか、自分がどのように成長できるのかを、知りたがっている。どんなシナリオのドラマに参加できるのか、この組織に参加する意味を感じたいと切望している。にもかかわらず、自分の成果追及に一生懸命で意識がバラバラ、まさに「一体感欠落」の状態の組織も多い。周りの人との思いの共有ができていないと、成果のために一生懸命がんばってよい成果をあげたとしても、だんだんむなしい気持ちになってくる。
自社「らしさ」、すなわち強みや独自性はどこにあるのか、どんな風にお客様に役に立ってきたのか、そして、それらの財産をもとにこれから、お客様にどのように価値を提供していくのか、といったことを、マネジャー自らが今改めて問い直す必要がある(図5)。そして、自社の独自性や未来のシナリオを、それぞれのマネジャーが自分らしい方法で、メンバーに語りかけることができたとき、メンバーの心の中に何らかの変化が起こり、思いが共有できるきっかけになるはずだ。そしてそれが、バラバラになっていた組織に一体感を生み出す出発点になる。

図5:「自社らしさ」の明確化
5-3. メンバーの本気を引き出し、自律を支援する
組織の中には、目的を達成するためのシナリオがあり、役割がある。組織としてはどれも欠くことができない大切な役割だが、一人ひとりのメンバーにとって重要なのはどの役をやるかではなく、いかに本気でかかわり、自分のもてる力をもとに、その役割をやりとげるかということであろう。「与えられた仕事だから」と指示待ちで、自ら工夫しないメンバーが集まると「不完全燃焼症候群」になってしまうのかもしれない。一人ひとりが主人公意識をもって、その役割を全うするために自発的に創意工夫して努力している組織は活気がある。
前述の調査で、課長・係長クラスのマネジャーには「目標に対する納得感と意欲を高めること」が最も重要であり、メンバーのコミットメントを引き出すことが求められていた。コミットメントとは、元来「誓約」という意味であるが、ここでは「目標達成に自発的に努力することを周囲や自分に約束すること」と定義する。コミットメントを引き出すためには、マネジャーはメンバーとの関わりの中で、図6のようなコミットメントを引き出すサイクルを頭に入れておくとよい。つまり、「私は期待されているんだ(周囲の期待)」→「自分にとっても周囲にとっても意味がある(価値)」→「自分にもできそうだ(成功確率)」→「やってみよう(自己決定)」→「やってみる(実行)」→「認めてもらえた(承認)」→「どこがよくて、何が課題か(ふり返り)」というサイクルである。

図6:コミットメントを引き出し、自律性を高める働きかけ
5-4. 実践段階におけるチームの課題解決力を高める
計画はいいが、実行が伴わない組織というのがある。「実践不足症候群」といわれる組織である。シナリオがあり、役割が決まっていても、いざ本番となると、なかなかうまくいかないのも現実である。環境の変化がますます激しくなる中、今までうまくいった方法が通じにくい状況も多く、今後のマネジャーには、実践段階での課題解決力も求められる。
昨今「ファシリテーター」型リーダーが話題になっているが、ファシリテーターの本質は「場を見る」ことと、「適切に働きかける」ことであると我々は考えている(図7)。組織・チームの中で、「目的・目標は共有できているか」「やり方は適切か」「時間管理・納期管理はできているか」「情報共有はできているか、コミュニケーションはどうなっているか」「それぞれのメンバーの意欲はどうなっているか」などの場の課題を適切に見極めて、働きかけることができるかどうかで、実践段階の課題解決の質に差が出てくる。そのようなマネジャーの動きにより、組織として意味のある成果やノウハウをキッチリ残せるようにすることが、実行力ある組織をつくる基盤になる。

図7:チームの課題解決力を高める
成果主義やコンピテンシーの考え方を導入した企業は多いが、「個人」の成果・成長が、真の意味で「組織」の成果・成長に結びついているかについては、再検討する時期に来ている。そこで、マネジメント教育・組織のあり方を見直す企業も多い。この文章が、ミドルマネジメントや組織の問題について考える経営幹部の方々や、マネジメント教育を考える立場の方々、また、冒頭の吉永さんのようにマネジメントに悩むマネジャーの方々にとって、何らかのヒントになれば幸いである。
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