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第三者意見

竹ケ原 啓介氏
株式会社日本政策投資銀行
執行役員産業調査本部副本部長

Sustainability Report 2017は、基本的に2016年版の構成を踏襲しています。2016年版から導入された価値創造プロセスのフレームワークは、グローバルな視座から取り組むべき社会課題を特定し、これを起点に、経営重点テーマに対応させつつ、自社の事業活動を通じた価値提供(ソリューション)に結び付けており、いわゆる「アウトサイド・イン・アプローチ」を体現した非財務情報開示として秀逸です。また、こうした価値創造を通じて長期的に目指す姿を、SDGsに則して多面的に展開したうえで、最終的なゴールとして8「働きがいと経済成長の実現」に収れんさせている点も、貴社の企業理念、事業内容とフィットしており、大変分かりやすく優れた構成だと思います。
特集記事にも一貫性が感じられました。まず、貴社の商品・サービスを支える技術開発に着目し、経営哲学「Better Communications」を実現するための技術力が詳細に解説されます。続いて、顧客側で実現される価値が、業務プロセス改善や働き方改革という形で具体的に示されます。社会課題の解決という抽象概念を具体的で分かりやすく提示した好例といえるでしょう。特に、コミュニケーション環境の提供や業務プロセス改革を実現する「プラットフォーム(エコシステム)」の構築を、貴社の役割として強調している点は、価値創造プロセスのゴールとも対応しており、印象的でした。コンセプトと一体化した特集記事だったと思います。
上記をはじめとするさまざまな優れた点を確認したうえで、今回触れざるを得ないのが、海外子会社における不適切会計処理問題です。これに関しては、6月に公表された第三者委員会による調査報告を踏まえ、トップコミットメントおよびこれに続く4ページにわたる記載により、原因や背景にある課題の分析、その解消に向けた各種の対応が詳細に報告されており、今号の主題の一つとなっています。この問題は、非財務情報開示という文脈においてどうとらえられるべきでしょうか。
企業の非財務情報を、近時のキーワードである事業を通じた社会課題の解決、すなわち価値創造シナリオと、そうした活動を支える土台としてのガバナンスやリスク管理からなる2層構造としてとらえれば、前者がどれほど優れていても、基礎部分そのもの、あるいは両者の接続に問題があると、とたんに色あせてしまいます。ESG投資の拡大に呼応して前者の巧拙に社会の関心が集中するなか、できて当たり前のような扱いになっていた基礎部分の重要性にも改めて目を向けるべきである、というのが、今回の問題の一つのインプリケーションといえるでしょう。
この観点から見ると、今号では、「経営の基盤」の内容をコーポレートガバナンスの徹底やリスクマネジメントの強化など内部統制関連に絞り込み、株主・投資家に対する提供価値である旨を強調するなど、直ちに一定の修正が加えられたことが分かります。今後も、一連の対応の進展に合わせて、こうしたフレームワークの調整は必要でしょう。その際、最も基本的な論点として、価値創造と基盤(いわばESとG)との情報量のバランスをどうするか、があげられます。近時、戦略情報の開示充実に合わせて、改めてガバナンス等に関する情報開示の強化を求める声が高まっており、今後、さまざまな改善策が奏功してくる貴社にとっては、優れたフレームワークを補強する意味から検討に値する論点でしょう。また、非上場とはいえ、富士フイルムグループとの一体性が強化されるなか、貴社の事業活動は、グループによる価値提供の主要な構成要素として、これまで以上に資本市場の関心を惹起することになります。従って、基盤はもとより、商品・サービスを通じた価値提供についても株主・投資家をステークホルダーに位置づけるなど、価値提供の対象範囲を広げる余地もあると考えます。さらに、これは中期的なテーマですが、価値創造プロセスの成果の見せ方に一層の進化を期待したいと思います。第3章では多様な成果が示されていますが、アウトプットにとどまるものも散見され、それがもたらすインパクトをより意識したもの(アウトカム)への深化が期待されます。あわせて、単年度目標になっているCSR指標を、長期ビジョンに対応させていくことも検討していただきたい点です。
これらは、実際には、貴社に限らず多くの企業が直面している課題でもあります。優れた価値創造フレームワークを持つ貴社の動向は、今後の非財務情報開示のあり方に大きな影響を与えることが確実なだけに、さらなる進化を楽しみにしております。