ホーム > 企業情報 > サステナビリティレポート2015 > ハイライト1 教育の「質」の向上を目指して

新しい学びの形を追求する

ハイライト1 教育の「質」の向上を目指して

変化の激しい社会にあって、自ら課題を見いだし他者と協力して解決していける、世界的な競争力を持つ人材を育成するためには、大学が限られたリソースの中で教育の「質」を上げ、その効果を高める必要があるが、そのためにはどうすればいいのか。大学のための「お役立ち」を会社全体で突き詰める富士ゼロックスは、さまざまな共創型プロジェクトを立ち上げ、大学と共に悩みながら、新たな価値の提供に向けて取り組んでいる。業務改善支援の範囲にとどまることなく、真に教育の「質」の向上に貢献するための富士ゼロックスの挑戦を紹介する。

世界大学ランキングの上位100大学に占める日本の大学の割合
(出所)World University Rankings 2014 -15をもとに算出
2%
能動的学修を効果的にカリキュラムに組み込むために検討を行っている大学の割合
(出所)文部科学省 大学における教育内容等の改革状況について(平成24年度)
54.8%
大学等教員の職務活動時間全体に占める教育活動時間の割合
(出所)科学技術・学術政策研究所 大学等教員の職務活動の変化(2015年)
28.4%

転換を迫られる日本の大学

世界がグローバル化し国際競争が激化する中で、近年の大学には世の中の社会課題を発見し、解決策を考えられる人材や、社会にイノベーションを生み出せる人材を輩出することが期待されている。世界規模でスピードが増している技術革新や、産業構造・ビジネスサイクルの変化に対応しなくてはならない日本の企業にとっては、そのような人材の確保は急務である。富士ゼロックスとて例外ではなく、成長と変化に挑み、常に「自ら考え、行動する」人材を欲している。
ところが、国際的な研究競争の激化の中で、自身の研究にも力を注ぐ必要のある大学の教員は、そのような人材を育成するために試行錯誤するだけの余力が十分にあるとは言い難い。つまり大学は、さまざまな制約条件の中で、今の学生に対する教育の「質」を高め、その効果を上げなければならない状況に置かれているのだ。

評価された「熱意」と「スピード」

法政大学
情報メディア教育研究センター
教授 常盤祐司氏

富士ゼロックスによる大学の教育改革支援は、法政大学の授業支援ボックスの開発からスタートした。法政大学では2007年に全学的に授業支援システム(LMS: Learning ManagementSystem)を取り入れており、学生の教育に必要な情報が一元管理できるようになったことで、教員の負荷は格段に下がっていた。しかし、ICTを活用した教育の導入を主導してきた同大学の常盤祐司教授は、その課題もまた見抜いていた。
「授業の最後にオンラインテストを行っていたのですが、そのオンラインテストは選択式のものでした。選択式の問題は、記述式の問題に比べると、学生に考える力を要求しません。教員の負荷が下がるのは歓迎ですが、そのために学生が自ら考える機会を奪ってしまうのは本意ではありません。やはり記述式でテストを行い、その手書きの文字もデータとして蓄積することができれば、すべてがうまくいくのではないかという思いがあったのです」
新しい教育法を模索していた常盤教授に声をかけたのが、富士ゼロックスだった。2012年、横浜の研究所「富士ゼロックスR&Dスクエア」で顔合わせを行った時、常盤教授には新鮮な驚きがあったという。通常、企業のプロジェクトでは担当者が数名いるだけだが、そこにはさまざまな分野の富士ゼロックスの研究者や技術者らがずらりと並んでいたのだ。常盤教授は次のように語る。
「豊富な知識を持つ現場の技術者たちと、密度の濃い意見交換ができたことは大きかったと思います。熱意を感じましたね。さらに、その後のプロジェクト展開のスピード感にも驚きました。2012年に開始したプロジェクトが2013年には商品化に至ったのです。あのようなスピード感はあまり見たことがありませんでしたね」
法政大学と共に開発した「授業支援ボックス」は、LMSと連動しているため、書類の管理やデータベース化の容易さが利点のひとつである。しかし、ここで予期していなかった効果も生まれた。学生たちから、「レポートを先生がしっかりと見てくれ、コメントや点数がついていることでやる気が出た」との声が上がった。テストの添削を通じて、教員と学生とのコミュニケーションが活発化したのだ。授業を受ける学生側の意欲や熱意を引き出す効果にも、大きな期待を抱かせたのである。

授業支援ボックスの概要

教育の「質」を上げるために、求められている教育は、従来のような詰め込み型の教育ではない。詰め込み型教育は、基本的な知識を習得するうえでは効果を発揮するが、学生の学習意欲の維持が困難とされ、また、知識の習得が一過性に過ぎないことが危惧されている。複雑さを増す社会の中で、学生自らがあるべき姿や目標を設定し、能動的に問題の解決に向けて考え続けることができるようにならない限り、真に競争力のある人間は育たないのだ。

あつまり、ぶつかり、うまれたもの

山梨大学 工学部
教授
塙雅典氏

山梨大学の塙雅典教授は、昨今の大学教育の現状に危機感を抱いていた。
「何となく学生の学びに対する熱意が足りないと感じていましたね。教える側の熱意が学生に伝わって、学生も熱意で応える、そのようなインタラクションが薄れているような気がしていました。単に教員が情報を伝えるだけでなく、生徒が自身の未来を想定し、自ら設定した目標に向かって学問やスキルを学ぶことのできる授業をしたいと常々考えていたのです」。その想いが富士ゼロックスと交差した。
そこで浮上してきたのが、アクティブ・ラーニングや反転授業だ。これは、学生が事前に授業内容を主体的に学習し、授業では演習などを行うもの。教室で講義を行い、演習を宿題にするこれまでの授業に比べると、講義と演習の場が「反転」するわけだ。当時、塙教授にとってもアクティブ・ラーニングや反転授業という言葉は聞きなれないものだった。偶然にも自身が想定していた授業がこれらの教育法と合致していたのだと塙教授は笑う。
「2012年に富士ゼロックスR&Dスクエアを訪問した時に、『あつまる、ぶつかる、うまれる』という同社のコンセプトを知りました。知の創造や集積の場である大学も、根本には同じ思想を持っていますから、私たちも富士ゼロックスの現場の方々と月に1度以上、何度も何度もディスカッションを重ねたのです。本当にさまざまな意見をぶつけ合い、試行錯誤を繰り返しました。富士ゼロックスにとってはビジネスですから、予算や工数との兼ね合いはあったでしょう。しかし、『学生が電子教材を使って事前に学習し、授業中には学生同士が疑問点をぶつけ合い、教員が追加の学びをサポートする』という形の授業を実現するためには、絶対に妥協するわけにはいきませんでした。富士ゼロックスのメンバーは本当によく応えてくれたと思います」
いくつかの失敗を重ねながらたどり着いたのは、富士ゼロックスが社内で使用していた音声同期スクリーンキャプチャによる講義動画のネット配信技術を応用することだった。富士ゼロックスの持っていたこの技術は、紙芝居のように静止画と音声を組み合わせたものだ。大きな機材もデータ容量も必要なく、ネット配信が可能で、教員もスライドに合わせ音声を吹き込むだけでいいというメリットがある。当初は作業が増えることを忌避していた教員もいたが、実際にその簡便なシステムに触れるにつれ、有用性を認めるようになっていったという。こうして生まれた山梨大学の反転授業は、2012年後期の4科目から2013年後期の8科目に拡大した。授業効果も目覚ましく、2013年度前期に50名が受講した反転授業導入後の情報通信に関する必修科目では、中間試験の平均点が前年の63.0点から80.4点へと大幅に増加、低得点者が24名から8名へと減少、高得点者も12名から33名へと大幅に上昇している。

反転授業の概念図

アクティブ・ラーニングや反転授業といった授業は、新しい教育のスタイルとして国内でも認知されつつあり、他大学にも広がりを見せている。富士ゼロックスと山梨大学の協業は、大きな教育の変革の発信源ともなっているのだ。

反転授業による教育効果

新たな教育のあり方を求めて

外国語学習支援プラットフォーム『GORILLA』の主な機能

京都大学 国際高等教育院
附属国際学術言語教育センター
准教授 金丸敏幸氏

京都大学では、国際的に活躍できるグローバル人材育成の語学学習を支援することを目的とし、eラーニングとeポートフォリオの二つの機能を柱とした外国語学習支援プラットフォーム(GORILLA)を構築している。
eラーニングの機能により、英語で学ぶ全学共通科目の講義の収録・視聴が可能となることに加え、それらの講義を素材とした教材をもとに、学生は自主学習を行うことができる。教員が講義や教材をシステムに適宜アップロードすることで、学生はどこにいても自分の時間に合わせて自由に学習できるようになるのだ。
また、eポートフォリオの機能により、学生のレポートや試験の成績などの蓄積、一元管理に加え、ソーシャル機能を活用した語彙学習も可能という特徴がある。さらに、紙によるフィードバック機能も備えており、グローバル人材育成のための外国語学習を強力に支援するシステムだ。
富士ゼロックスは、本システムの構築にあたり、「紙と電子のそれぞれの利便性を最大限に活かしたシステム」という京都大学のニーズに応え、真のお役立ちを実現することを目指した。そして、前述の「授業支援ボックス」を組み込むことで、紙と電子の組み合わせにより教員と学生の双方にとっての使いやすさを追求したシステムの構築をすすめている。
GORILLAの構築に2014年度から携わっている京都大学の金丸敏幸准教授は、富士ゼロックスに対する期待を次のように語る。「大学の数だけ個性がありますから。それを現場で感じ、共に悩みながら大学に応じた最適なシステムを、つくりあげていくためのパートナーとしての存在を期待しています。また、大学にはシステムにあまり明るくない教員がいるのも事実です。しかし、紙は誰でも使うことができます。真に教育の『質』を向上させるためには、紙だけでも電子だけでもうまくはいきません。紙が使われなくなることはあり得ませんから、脱『紙』ではなく、両者を組み合わせることでさらに教育の効果が上がると考えます。富士ゼロックスだからこその視点での提案も期待しています」
顧客とのコミュニケーションを重視しながら、新しい価値を提供するためには、従来の複写機などを通じたお役立ちだけにとらわれることなく、つねにお客様に寄り添い、その課題を把握しながら解決策を提案する富士ゼロックスの姿勢が問われることになる。大学のみならず、教育界全体に教育の質をさらに高めるための富士ゼロックスの取り組みは、今後も続いていく。

サステナビリティレポート2015アンケート