ハイライト2 地域のみらいを創る

「ふれあうように学ぶ」場

少子高齢化や人口流出などが地域の問題として顕在化する中、長期的かつ継続的に活力をもたらす、真の地方創生が問われている。閉校となった中学校舎を活用し、富士ゼロックスが岩手県遠野市と共に運営する「遠野みらい創りカレッジ」は、地元住民、自治体、企業、学校などの関係者による、地域・年代・立場を超えたさまざまな「連携」を促し、関係者同士Win-Win-Winの事業創出のきっかけになるとともに、地域を担う次世代の人づくりの舞台としても成果を上げてきた。自立・自律型地域をも目指す未来志向の「場」は、有識者の高い評価とともに、新しい地域デザインのあり方を社会に示唆している。

遠野市の高齢化率
(出所)遠野市 遠野市の人口と世帯
(平成26年8月31日現在)35.5%
全国の高齢化率
(出所)内閣府 平成27年版高齢社会白書
(平成26年10月1日現在)26.0%
遠野みらい創りカレッジ来校者数 (平成26年度)年間3,569名
(平成27年度見込み)年間5,000名

遠野市と思いを共有し、一歩を踏み出す

遠野みらい創りカレッジ開校記念式典

遠野みらい創りカレッジ(以下:カレッジ)の設立は、2014年4月。その約3年前の東日本大震災で、富士ゼロックスの社員が岩手県釜石市など沿岸部の被災地支援に向かう途中、被災地の後方支援拠点である遠野市と交流を持ったのが設立のきっかけだ。河童やザシキワラシなど『遠野物語』の世界に象徴される文化や歴史、美しい自然が受け継がれている名のある地でも、全国平均を上回る高齢化率や人口流出といった問題を抱え、社員は訪れるたびに「この素晴らしい地域で何かお役に立てないか」との思いを強めていった。「人材が育たなければ衰退するとの危機感は、地方も企業も同じでした。思いを共有し、『次』に目を向けました」(本田敏秋・遠野市長)。より良いコミュニケーションを通じ、人を育て、社会に貢献する――。そうした、富士ゼロックスが脈々と培ってきた価値観が、本田市長をはじめ地域関係者の共感を呼び、二人三脚によるプロジェクトとなっていった。

みらい創りキャンプ

2012年秋、遠野市と共催で「みらい創りキャンプ in 遠野」がスタート。富士ゼロックスコミュニケーション技術研究所のノウハウも活用し、「対話」「行動」「継続」をコンセプトに、地域の魅力を発見し、魅力を活かした体験ツアーや地元産品を使ったおみやげ品の開発、企業研修などの活動が行われた。2013年には自社の新入社員研修で260名が訪れ、「ふれあうように学ぶ場」というキーワードが生まれた。
また、閉校した中学校の活用も議論され、市民との対話を重ねながら、旧遠野市立土淵中学校の校舎をカレッジの活動拠点として位置づけることが決まった。

世界の大学生との交流で、地元の高校生が輝き出した

東京大学大学院
工学系研究科教授
堀井秀之氏

東京大学でイノベーション教育を行う「i.school」が企画した「東大イノベーション・サマープログラム」(TISP)。その参加者が、カレッジに足を運んだのは、2014年8月のことだ。東大のほか、ハーバード、オックスフォードなど、公募で集まった世界の学生60名が、遠野高校の生徒と共に3日間の共同生活を通じ、高校生の「変革」に挑んだ。
最初は尻込みしていた高校生が、地元の魅力を知るフィールドワークやイノベーション教育のワークショップ、地元住民の家で世界の大学生と一緒に民泊する体験などを通じて変わっていった。最終的には、自分たちが気づいた故郷の魅力から地域イノベーションを起こすアイディアを英語を使った寸劇で堂々と発表。その様は、i.schoolの運営を統括する堀井秀之・東京大学大学院工学系研究科教授の目にも強く焼き付いた。「その時の高校生たちの瞳は光り輝き、彼らの人生においても強く影響を与えたことを感じさせます。そして、高校生を教える側の大学生にとっても、自分たちが今後、イノベーションを起こすために何をすべきかを考える上で貴重な経験となりました」

地域と共にビジネスを育てる

東洋SCトレーディング株式会社
花房明子氏

東洋SCトレーディング株式会社の社員として新しいビジネス創出に悩んでいた花房明子氏は、富士ゼロックス主催で2014年に実施された「みんなの未来共創プログラム」に参加した一人だ。首都圏、東北、遠野から参加した7社8名に対し、大学関係者やコンサルティング会社、地元住民などが支援者として加わり、各社がビジネスとして成り立つ形で遠野の未来を描いた。

みんなの未来共創プログラム

「思考のボトルネックが徹底的に外され、ビジネスモデルを自由に発想できました。そこに、地元の人が実感を持ったコメントを目の前でくれるので、もっといいものにしようと頑張れました。遠野と東京を行き来する中で常に支援者からの助言や応援にも励まされ、期待が確信に変わっていくのを感じていきました」花房氏が描いたのは、遠野と姉妹都市のイタリア・サレルノ市に、遠野の名産品を輸出し、遠野そして日本の食文化などを伝えるモデルだ。すでに、アクションプランの具体化に向けて動き出している。

「集合知」を生み出すプラットフォーム

地域を巻き込みながら未来を担う人材が育つ機能を、遠野の地、そしてカレッジが担った。富士ゼロックス・復興推進室 室長の樋口邦史は、カレッジの機能を、地域と共に課題を見つけ、解決策を探るための「プラットフォーム」と呼ぶ。そこには、「プログラム」や「場」、そして「人」が用意され、地域内外の企業や学生、地元住民、自治体職員などが本音でぶつかり合う。ときに、遠野で守り続けられている民泊、民話、馬搬注1、美しい自然などの体験を織り交ぜながら、プラットフォームは地域との連携を促し、次第に個々の意見を「集合知」へと育てていく。

  • 注1 山で伐採した木材を馬で運搬すること

コミュニティ・センタード・デザインが地域を導く

富士ゼロックス株式会社
復興推進室
遠野みらい創りカレッジ
佐々木愛実

カレッジのスタッフで、旧土淵中学校出身でもある佐々木愛実は、自身を「遠野の一般住民の意識と変わらない」と前置きしたうえで、次のように話す。
「カレッジの活動に携わり、地元に貢献したいと思うようになりました。地元に残る仲間たちとカレッジに集まり、地元の良さを知るイベントを自ら企画するなど、内向きだった以前の自分が嘘のようです」
また、カレッジで開催された「遠野・京都文化資本研究会」の参加者が、「この遠野で100歳まで幸せだったといえる人生を送るためにも、もっと地域を良くしたい。今は、重要文化財の古民家に農村のおもてなしを集め、遠野の迎賓館にしていきたい」と元気に語る姿が印象的だ。

NPO法人
遠野山・里・暮らしネットワーク
浅沼亜希子氏

民泊の窓口でもあるNPO法人遠野山・里・暮らしネットワークの浅沼亜希子氏は、「民泊先のご家族と宿泊者が、心を許して話す時間は、双方にとって大きな意味を持つことがあります。地元住民の多くも、地域を元気にするには自分も動かなければと、気づくところまできました。それらを大きなうねりにしていけるかが、カレッジの勝負どころだと思います」
昨年度1年のカレッジ訪問者数は、約4,000人。合計1,800泊の約4割は民泊だ。地元の「思い」は、民泊などを通した地元住民と深く「ふれあう」場からも社会的課題としてあぶり出される。

富士ゼロックス株式会社
復興推進室 室長
樋口邦史

「企業誘致やツアーバス誘致なども地域活性化策としてありますが、我々はさまざまな角度で地域に密着しコミュニケーションを取ることによって、真の課題を知り、解決の手法に落とし込むアプローチ。それは、地域コミュニティを中心に据えた『コミュニティ・センタード・デザイン』の発想で、あらゆるステークホルダーが地域とつながり続け、継続的な地域力の向上を目指しています」(復興推進室 室長・樋口)
その成果は、ビジネス創出、人材開発、そして地域の変化となって、目に見える価値を社会に出現させ始めている。

共通価値の創造(CSV)の場

2015年、開校から2年目を迎えたカレッジでは、企業・団体などの研修事業、民俗学の研究・発信、6次産業化の支援、グリーンツーリズムなど、さまざまなプログラムが動き出している。被災地支援の観点では、災害時後方支援自治体研究会などにも注力し、「平時だけでなく緊急時も視野に入れた活動は、地域のために本当に意味のあるCSRではないか」と堀井教授も注目する。
企業が課題を持ち寄り、地域と共に考える「みんなの未来共創プログラム」も、2年目は新たに自治体や第三セクターが加わるなど厚みを増し、それぞれの未来を描き始めた。TISPによる世界の大学生との交流のほか、新規に日本の大学間の交流も受け入れる。
一連の活動は、カレッジの持つ「連携」の機能と相まって、地域の文化や歴史、自然、人など、大切に守り育てられてきた資産を活用し、地域社会全体を息づかせる。それが、さらに次の課題、次のプログラムを呼ぶ力にもなっている。
日本の地域が抱える問題や課題は、一様ではない。だからこそ、たとえ時間がかかっても地域に根づいた「場」を持ち、継続的にステークホルダーとつながり、真の問題を突き詰め、解決の糸口を地域と共に見いだしていくカレッジは、有識者から高く評価されている。
すでに、神奈川県南足柄市で「対話」が始まったほか、他の自治体と協業する動きもある。また、カレッジ内では、新たな雇用創出の研究・検証を強化するなど、事業拡大に向けた布石も打つ。日々、成長し続けるカレッジ。震災から4年が過ぎた今、遠野の地で芽生えた活動は、地に足の着いた事業として、日本の地方創生に貢献しようとしている。

京都大学名誉教授
池上惇氏

社会的責任投資の観点からも、こうした企業活動が重要な時代です。現代社会は、人々のニーズも多様化し、地域の真のニーズを知るには、コミュニティに密着し、地域内外の知恵を結集して答えを導く「集合知」が鍵となります。民間企業は一般に、短期の利益追求に重きを置き、その域に達しませんが、富士ゼロックスは、「コミュニティ」と「対話」を通じた非営利活動からニーズを探り、社会問題の解決と両立する形でニーズに応え、ビジネスに昇華させた民間企業といえるでしょう。
遠野みらい創りカレッジには、集合知から得られた成果をすぐに世の中に広げられるほどの迫力があり、今後、地域から世界に発信できる知識基盤として成長し、新しい価値創造の場としての“地域と共に歩むモデル”を全国や世界にも広げてほしいと思います。

遠野市長
本田敏秋氏

少子高齢化、人口減少の波に立ち向かう人材が、地方自治体に強く求められています。人材に求められる企画力や発想力、創造性、そして汗は、地方が抱えるさまざまな課題を解決し、自律型地域を実現する源泉といえます。遠野みらい創りカレッジは、民間企業や学生らの人材育成の「場」であり、各種研修などを通じ地域住民ともかかわり、知恵を持ち寄り、双方に刺激を与えながら成果を生み出せる絶好の「場」です。また、災害時の復興支援の一つの切り口としても考えられます。これからの時代を見据え、岩手県内の市町村の研修の「場」としても機能させ、われわれ遠野市も各市町村と共に切磋琢磨して、より元気な自治体を目指したいと思います。

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