ビジネスレポート

人材育成やビジネス力強化など 課題解決のお手伝い ビジネスレポート

なぜ周りは動いてくれないのか ― 相手のタイプと状況に応じた説得の技術 ―

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長
首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師
坂本雅明

著者プロフィール

1969年生まれ。1992年上智大学卒業、2005年一橋大学修士課程修了(MBA)、2009年東京工業大学博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター非常勤共同研究員(2005~2006)。2012年より首都大学東京大学院ビジネススクールの非常勤講師として、戦略経営I II(戦略の策定と実行管理)を担当。また、2006年より富士ゼロックス総合教育研究所研究室長として戦略策定・展開プロセスの研究に従事するとともに事業戦略策定や新事業開発、次世代リーダー育成、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。主要著書に「戦略の実行とミドルのマネジメント」(同文舘出版、2015年)、「事業戦略策定ガイドブック」(同文舘出版、2016年)。

ショートケース(1) 部下を動かすために
突然ですが、A課長になったつもりで考えてください。

A課長は、部下に難易度の高いことに取り組んでもらおうと何度も依頼しましたが、部下は首を縦に振ってくれませんでした。
これ以上説得しても無理だと考えたA課長は方針を変えました。部下から「この上司のために頑張りたい」と思われるような、人望のある上司になるよう努めることにしたのです。そして他者からの依頼や要望に積極的に応え、損な役回りも進んで引き受けました。もちろん部下の要望にも真摯に対応しました。半年経って、再び部下に依頼をすることにしました。

このような方法でも効果があるでしょうが、部下に首を縦に振ってもらう確率をより高める別の方法があります。難しいことに取り組ませるために、A課長には、あと何が必要でしょうか。

1. はじめに

マネジメントを発明したといわれているピーター・ドラッカー氏は、このように述べています。

「長期にわたって有能だった人が、なぜ急に凡人になってしまうのか。彼らは新しい任務についても、前の任務で成功したこと、昇進をもたらしてくれたことをやり続ける。彼ら自身が無能になったからではなく、間違った仕事のやり方をしているからだ。注1

部下を通して仕事をするのが、マネージャーです。マネージャーが自分で仕事をしてしまってはいけません。部下と一緒になって、個人では成し遂げられないような成果を上げることが期待されているのです。
そのために必要となるものが、相手を動かす影響力です。そしてそれは、部下に対するものだけではありません。部下を動かすために働きかける相手は、部下だけではないからです。組織目標を達成するために、他組織の協力を取り付けなければならないことは少なくありません。また、新たな取り組みを進めるために、上司から承認を得たり予算を引き出さなければならないこともあります。四方八方に対して影響力を発揮しながら、物事を進めていくのがマネージャーなのです。

それでは、部下、横の組織、上司それぞれを動かすには、何がポイントになるのでしょうか。こうした問題意識のもと、本人(マネージャー:課長クラス)を取り巻く部下、横の組織(課長クラス)、上司(部長・事業部長クラス)それぞれ500人に対する定量調査を実施しました。
調査では、以下の図1に示す「影響力の源泉」、「相手の認知」、「相手の意向」、「行動」という4階層のフレームを用いました注2。そして、項目間の関係性を分析することで、「影響力の源泉」から「行動」に到達するまでの、効果的なルートを抽出しました。以降では、相手別の効果的ルートを紹介します。

【影響力の源泉】[依頼・提言行為]論理的な説明 多面的な事前検討 双方向の意見交換 相手の利害や立場の考慮 熱意と覚悟 [本人特性]実績と専門性 自分自身への厳しさ 私心のなさと誠実さ 人柄の良さ 社内での発言力と存在感 業務上の権限 [関係性]業務の依存関係 日頃の献身的行動 日頃の意思疎通 【相手の認知】[内容への感想]内容の正当性 内容の魅力・共感 [依頼者への感情]依頼者への信頼感 依頼者への支援心 [損得勘定]自己・自部門のメリット 厄介ごとの回避 【相手の意向】[肯定的]喜んで受け入れたい [中立的]色々考える前にまずはやってみる [否定的]仕方ないが受け入れざるを得ない 【相手の行動】[行動]図1 調査フレーム

2. 周囲を動かす説得の技術

2-1. 部下を動かす方法

まずはショートケース(1)の状況から離れ、通常の状況で部下を動かす方法を説明します。

権限を行使する

マネージャーに昇進すると与えられる武器が、職位に伴う権限です。この権限を使えば、確かに部下を動かすことができます(図2-1-1)。権限を持つマネージャーが指示すれば、部下はそのことが会社にとって大切なことだ(内容の正当性)と感じるのです。

【影響力の源泉】[業務上の権限] 【相手の認知】[内容の正当性] 【相手の意向】 [色々考える前にまずはやってみる] 【相手の行動】[行動]図2-1-1 権限で部下を動かすルート

しかし、権限という武器は、諸刃の剣です。権限を行使して部下を動かす場合には、2つの注意が必要です。

1つ目の注意点は、部下は必ずしも肯定的に受け止めているわけではないということです。図1の右から2列目の「相手の意向」について、補足します。これは、行動するかどうかの最終判断のようなものです。そしてその意向には、肯定的意向(喜んで受け入れたい)と否定的意向(仕方ないが受け入れざるを得ない)だけでなく、もう1つあることが分かりました。「色々考える前にまずはやってみる」というものです。自分にとって望ましいことかどうかという判断を先送りして、とりあえず行動してみようというものです。

権限を行使するルートは、この「色々考える前にまずはやってみよう」を通ります。つまり、部下はそれをやることに納得しているわけではなく、判断を先送りしているだけです。いずれ部下は判断します。その時に否定的ではなく、肯定的に捉えてもらわなければなりません。

そして、そのための1つの方法は、小さくてもよいので早期に成功体験を得られるような仕事を与えることです。心理学者のアルバート・バンデューラ氏によれば、自己効力感(自分はできるんだという感覚)が高い人ほど、より高い目標を設定し、その実行にコミットするといいます注3。そして、自己効力感を高める上で最も効果のある方法が、成功体験だといわれています。権限を使って強制する場合は、こうした成功体験を早期に得られるような工夫が必要です。

2つ目の注意点は、権限のマイナス作用です。図には示していませんが、「業務上の権限」と「内容の魅力・共感」は、逆相関の関係にあります。つまり、権限を振りかざすと、本来は部下にとって魅力的に思えることであっても、そう感じられなくなってしまうのです。

こうしたことを考慮すれば、権限の行使は最後の手段にすべきです。さらにいえば、初めから肯定的に受け止めてもらうような方法が望まれます。

部下の主観に訴える

初めから「喜んで受け入れたい」と思わせるためのルートが、以下の図2-1-2です。「内容の魅力・共感」を抱いてもらったり、「依頼者への支援心」を持ってもらうことが大切だということがわかります。

【影響力の源泉】[人柄の良さ][日頃の献身的行動] 【相手の認知】[依頼者への支援心][内容の魅力・共感] 【相手の意向】[喜んで受け入れたい] 【相手の行動】[行動]図2-1-2 部下の主観に訴えるルート

権限を行使する方法(図2-1-1)では、客観性や合理性で押し通そうというものでしたが、このルートは部下の主観に訴えています。調査では、このようなコメントも寄せられました。

  • 「できる限り一生懸命頑張って、この上司の力になってあげたいと思った。」(流通業、営業職)

このように思ってもらうことができれば、上司冥利につきます。しかし、だれもがそう思ってもらえるわけではありません。そう思わせることができる上司には、2つの特徴がありました。

1つが「人柄の良さ」です。昔と違って人柄など関係しないのではという仮説のもとに質問項目を追加したのですが、今の時代でもやはり人柄は重要なようです。
そしてもう1つが「日頃の献身的行動」です。これは、自分の時間や労力を犠牲にしても、普段からいろいろな人のために行動することです。「日頃の献身的行動」は多くのルートに登場する、とても重要な影響力の源泉です。「人柄の良さ」は持って生まれた部分もあり改善が難しいかもしれません。人柄に自信のない人は、ぜひ献身的な行動に努めてください。

【 ショートケース(1)を考える 】難易度の高いことをさせる場合

しかし、人柄や献身的な行動だけでは役に立たない場面もあります。ショートケース(1)にあったような、難易度の高い依頼を部下にする場合です。来期の目標を1.5倍にしたり、誰もできなかったような技術開発を求めたりすると、いくら人柄が良くても、あるいはいくら献身的に行動していても、それとこれとは話が別だと部下は考えるでしょう。

マネージャーの仕事は部下を動かすことだけではありません。同時に、部下を育成しなければなりません。そのためには、難しい仕事にチャレンジさせることが効果的です。しかし、難しいことであるほど、部下はなかなか首を縦に振ってくれません。どうすればよいのでしょうか。

部下のことを多角的に考える

依頼内容の難易度が高かったデータに限定して分析したところ、2つのルートが現れました。1つは、半ば脅しのようなものです(このルートは図示していません)。その行動を取らなければ仕事上不利になることをちらつかせ、仕方なく受け入れさせる方法です。確かに動かすことはできますが、望ましい方法とはいえません。そこで、以下に示すもう1つのルートです。

【影響力の源泉】[多面的な事前検討] 【相手の認知】[内容の魅力・共感] 【相手の意向】[喜んで受け入れたい] 【相手の行動】[行動]図2-1-3 部下に難易度の高いことをさせるルート

「喜んで受け入れたい」と思ってもらうために、「内容の魅力・共感」に訴えるところまでは、直前に説明した図2-1-2と同じです。しかし、その源泉が異なります。難易度が高い依頼の場合は、「多面的な事前検討」が鍵になります。これは、思いつきや表面的なものではなく、さまざまな側面から検討されていることです。つまり、どれだけ部下のことを考えた上で依頼したのかということです。「人柄の良さ」や「日頃の献身的行動」は重要ですが、難易度が高い依頼の場合にはその効果は限定的です。部下の成長など、いろんな側面から真剣に考えることこそが、部下の共感を誘うのです。

次は、横の組織を動かす方法です。

  • 注記 このレポートは2016年7月時点の情報です。2019年7月1日より株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所はパーソルラーニング株式会社になりました。

富士ゼロックスダイレクト「お役立ち」では、この他にも複合機の活用術やビジネスに役立つ法務知識、健康に役立つトピックスなど、富士ゼロックスが厳選した情報をお届けしています。

富士ゼロックスダイレクト会員の方は「ログイン」、まだ会員でないお客様は「ユーザー登録(無料)」にお進みの上、ぜひご活用ください。