ビジネスレポート

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踊り場に差し掛かった部下を、次のステップに進ませるには(後編)

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長
首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師
坂本雅明

著者プロフィール

1969生まれ。1992年にNEC入社。NEC総研を経て2006年より現職。戦略策定・実行プロセスの研究に従事。また、戦略策定の研修・コンサルティング、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、子会社の経営支援にも携わる。首都大学東京では社会人学生向けに戦略策定コースを担当。一橋大学大学院修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期過程修了(博士(技術経営))。

部下の育成はマネージャーにとって重要な役割です。その効果的な方法は、上司が部下に仕事を教えることではなく、部下本人に自分の課題を気づかせることだということを前編でお伝えしました。
とはいうものの、簡単ではありません。どうすれば部下は気づいてくれるのでしょうか。
後編では部下に気づきを与えるための上司の関与方法について、ヒントをお伝えします。

踊り場に差し掛かった部下を、次のステップに進ませるには(前編)はこちら

富士ゼロックス総合教育研究所では、1994年より人材開発問題の時宜を得たテーマを選択して調査・研究を行い、『人材開発白書』として発刊しています。
2009年には中原淳先生(東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)、松尾睦先生(北海道大学 大学院経済学研究科 教授)の監修のもと、国内一部上場企業・関連会社37社にご協力をいただき、28歳から35歳の2,304人に対する定量調査を実施しました。

前編のポイント

前編で紹介した調査結果は以下の通りです。

  • 社会人の成長には経験が必要であり、経験から学ぶためには「他者」が必要である。
  • 他者からは「業務支援」「内省支援」「精神的支援」を得ることができる。
  • この3つの中で特に重要なものは「内省支援」である。いくら良質の経験をしても、上手くいった要因や失敗した要因を振り返らなければ、経験を自分の力に変えることはできない。
  • しかし、若手であるほど、自分で立ち止まって振り返ることが難しい。誰かが無理やりにでも立ち止まらせ、一緒に振り返ってあげなければならない。

こうした調査結果を踏まえて、ケース(前編)の問題点として指摘したことは、軸足の置き方でした。部下である北村に対する和田マネージャーの育成方法の軸足を、業務支援から内省支援に転じるべきだと述べました。
しかし、業務支援に比べると、内省支援ははるかに難しいものです。どうすれば上手くできるのでしょうか。後編では効果的な内省支援方法を考えます。

1. なぜ部下が育たないのか(後編) ケース:和田実の場合

和田は北村への接し方を変えた。教えることは続けながらも、一緒に振り返る時間をできるだけ多くするようにした。自分で気づく力、自分で考える力を身につけてもらうためである。

失敗に対してはまずかったところを伝えるのではなく、なぜ失敗したのかを一緒に考えるようにした。詰問にならないように十分気をつけた。失敗だけ取り上げると滅入ってしまうかもしれないので、上手くいった事例も取り上げて、何が良かったのかも話し合うようにした。

しかし、北村はなかなか気づいてくれない。和田は、「なんで分からないんだ」と声を荒げそうになることもたびたびあった。
北村もかなり参っているようである。和田が何を考えているのかは、北村には分からないようだった。弱音を吐きたいこともあろうが、上司の和田や大先輩の元木に愚痴を言うこともできないし、年下の岡田に知られるのも恥ずかしい。北村の表情から、そう感じられることがしばしばあった。

ところで、和田の業務は北村の育成だけではない。岡田の育成もある。それだけではなく、自分自身もプレイングマネージャーとしていくつかの製品の生産管理を担当している。営業に同行して顧客企業に行くことも多い。さらには、安全衛生委員会のリーダー業務にもかなりの時間を費やしている。会社からは、コンプライアンスの遵守、セクハラやパワハラ防止の徹底という名の下に、さまざまな提出物を求められる。すべてがマネージャーである和田の肩にのしかかってくる。北村も参っているが、和田の方が先につぶれてしまうかもしれない。

和田のやり方には、どんな問題があるのか。どのような育成スタンスに変えればよいのだろうか。

2. なぜ部下が育たないのか(後編) 解説

2-1. 職場における360度の関係性の大切さ

「業務支援」「内省支援」「精神的支援」は、それぞれ誰がもたらしてくれるのでしょうか。その分析結果を整理したものが図1です。

[上司 先輩]業務支援 内省支援[同僚]精神的支援 内省支援[同期]精神的支援 内省支援[部下 後輩]内省支援(出典:富士ゼロックス総合教育研究所『人材開発白書2009』をもとに作成)図1 3つの支援それぞれを与えてくれる人

若手・中堅社員は、上司や先輩からは業務の支援をしてもらっています。とはいうものの、万能ではありません。特に上司からの精神的支援は、効果はあまり見られませんでした。いくら優しい言葉をかけてあげても、残念ながら部下の心が安らぐことはあまりないようです。

それでは、精神的支援は誰から得られるかというと、同期や同僚でした。共同研究者の松尾先生に聞いた話を紹介します。和田先生は過酷な職場の人へのインタビューというめずらしい調査をしているのです。具体的には看護師さんです。夜勤もある上に、急患などで時間も不規則になり、また人の死に目に立ち会うこともある。そのような職場で働いている看護師さんに、「こんなに大変なのに、なんで仕事を続けているのですか」と聞いて回ったところ、最も多かった答えが、「同僚も頑張っているから」だったそうです。同僚の存在自体が、心の支えになっていたのです。

話を戻します。図1の中でまだ触れていない他者が、部下・後輩です。上司や先輩、同期・同僚に比べると、3つの支援の程度はあまり高くありませんでした。しかし、1つだけ引けをとらないものがありました。内省支援です。その理由を知るためにインタビュー調査をしたところ、以下の3つの答えが多くあがりました。

  • 「組織に染まっていない部下・後輩の率直な意見がとても参考になった」
  • 「部下・後輩を指導して始めて、自分の能力があることやないことに気づいた」
  • 「部下・後輩を指導して初めて、上司の気持ちが理解できた」

このように、若手・中堅社員は職場内の360度の関係性の中で成長していきます。昔であれば、放っておいても職場の中で成長できたのでしょう。なぜならば、360度の関係性がセットされていたからです。しかし、今は違います。採用削減のあおりで部下がいなかったり、フラット化によってメンバーが同列になったりと。つまり、誰かが介入しなければ、職場の中で成長しにくくなっているのが現状なのです。

2-2. 部下育成のための上司の役割

別のデータを紹介します。
業務支援によって部下に仕事を教え、内省支援によってその業務経験を部下の力にする。上司がこうしたことにしっかり取り組んでいるほど、部下の成長感は高いはずです。図2は、そのことに関するデータで、調査に協力いただいた企業37社の平均データがプロットされています。なお、守秘義務の関係上、あえて正確なデータにはしていません。

図2 企業別の上司の支援状況

若手・中堅社員の成長感が高かった企業3社のデータが、この図の中にあります。当然、右上の点線で囲われた黒丸の3社が該当するだろうと予想されますが、結果は真ん中あたりに位置づけられている実線で囲われた青丸の3社でした。上司の業務支援と内省支援が高いわけではなく、先輩や同期・同僚、部下・後輩など、上司以外の人からの業務支援、内省支援が多かったのです。

このような説明をすると、上司は何もしない方がいいんだと思う(喜ぶ?)マネージャーもいるかもしれませんが、残念ながらそうではありません。成長度が高かった3社の上司のマネジメントを分析したところ、組織メンバーの関係性構築に力を入れていました。つまり、直接的な部下育成ではなく、間接的な部下育成に取り組んでいたのです。

非常に良いやり方だと思えます。マネージャーはただでさえ多忙です。プレイングマネージャーとして自らが業務をこなす上で部下のマネジメントがあり、その上で、会社からはコンプライアンスの徹底だのリスク管理だの、いろいろな指示がおりてきます。さらに部下全員を育成しなければならないとなると、上司が先につぶれてしまいます。一方の部下にとっても、たった1人からしか学べないという状況はあまりよくありません。すべてに秀でている上司などはないからです。上司は、自分以外の人から部下が学ぶ機会を奪ってはいけないのです。

2-3. ケースを考える

こうした観点から、ケースを考えます。
どうすれば、北村に対する効果的な内省支援ができるのでしょうか。調査結果を当てはめると、重要なことが2つ考えられます。ひとつは、先輩の元木に任せることです。元木はいまでこそ優秀な社員ですが、そこに至るまでには多くの苦労をしてきました。上司の和田よりも北村の状況や気持ちが分かるかもしれません。
そしてもうひとつは、岡田の育成を北村に任せることです。岡田はサポート的な業務が中心でしたが、そろそろ主体的に業務をしてもらわなければなりません。うまく移行させることを北村に任せれば、その育成過程で、自分自身のことでも何らかのヒントが得られるかもしれません。

さらには、次の2つの取り組みが援護射撃になるはずです。
ひとつは、メンバー間の関係性作りです。お互いに他者から学ぶ機会を増やすためには、メンバー間の関係性が大切です。もう少し具体的にいえば、互酬関係です。互酬関係とは、一対一のGive and Takeの関係とは違います。
例えば、AさんがBさんに何かをしてあげたら、BさんはAさんに恩返しをするのではなく、Cさんに何かをしてあげるというような関係です。こうした関係が醸成されるほど、相互の学び合いは確実に進みます。
そしてもうひとつは、これは和田がやるべきことではなく、事業部として取り組むべきことでしょうが、同期での交流の場をつくってあげることです。北村は苦しい状態でも、愚痴を言える相手や悩みを聞いてもらえる同期がいません。苦しいときに悩みを打ち明けられるのは同期だということは、既に説明した通りです。技術や製造に配属された同期との接点を意図的に増やした方がよいでしょう。

いかがでしたでしょうか。
内省支援を中心とした「他者との"かかわり"」を通じて、若手、中堅社員の育成方法についてご紹介しました。
今回は和田マネージャーのケースを基にいくつか具体的な方法を提言していますが、これがすべてではないと思います。マネージャーの皆さまには本レポートを参考に、ご自身の状況に沿った支援を実行いただければ幸いです。

  • 注記 このレポートは2015年11月時点の情報です。2019年7月1日より株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所はパーソルラーニング株式会社になりました。

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