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なぜ、いつも決断ミスをしてしまうのか(後編)
― あなたが頼るべき3人の協力者 ―

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長
首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師
坂本雅明

著者プロフィール

1969年生まれ。1992年上智大学卒業、2005年一橋大学修士課程修了(MBA)、2009年東京工業大学博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター非常勤共同研究員(2005~2006)。2012年より首都大学東京大学院ビジネススクールの非常勤講師として、戦略経営I II(戦略の策定と実行管理)を担当。また、2006年より富士ゼロックス総合教育研究所研究室長として戦略策定・展開プロセスの研究に従事するとともに事業戦略策定や新事業開発、次世代リーダー育成、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。
主要著書に『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版、2015年)、『事業戦略策定ガイドブック』(同文舘出版、2016年)。

前回のレポートでは「他者との相互作用が意思決定の質を高めてくれる」という説明をしました。では、実際に誰を頼るべきでしょうか?他者は誰でも良いわけではなく、頼る相手で大きく変わります。
今回は調査データをもとに『より良い決定に導いてくれる他者』は誰なのかを考えます。

本レポートは「なぜ、いつも決断ミスをしてしまうのか」の後編となります。
ぜひ前編もあわせてご覧ください

「なぜ、いつも決断ミスをしてしまうのか(前編)
― 他者の存在が意思決定の質を高める ―(2017年6月掲載)」

はじめに

意思決定プロセスを、便宜的に「事実の整理段階」、「アイデア出し段階」、「決定段階」に分けたとします。あなたが難しい意思決定に直面したときに、それぞれの段階で誰に相談することが多いですか?(相手が重なっても構いません)。その人の思考タイプを、以下の6つの中からお選びください。1つに絞りきれない場合は2つを選んでも構いません。

  • 事実重視:憶測ではなく、事実を重視する。曖昧ではなく、具体的・定量的な情報を重視する。
  • 論 理 性:情報を論理的に分析することで答えを導く。複数の問題がどう関連しているのかを論理的に把握する。
  • 創 造 性:既存の考えにとらわれずに、自由に発想する。新しい解決策はないかと、常に考える。
  • 先 見 性:将来を予測した上で、何をすべきかを考える。将来直面する可能性のある問題を考える。
  • 決 断 力:適切かつタイムリーに決断する。複雑な状況に直面しても、決定を先送りしない。
  • 挑戦志向:素晴らしいアイデアはリスクがあっても思い切って試みる。可能性があれば何事もチャレンジする。

意思決定には他者が役立ちます。しかし、その他者は誰でも良いわけではありません。より良い決定に導いてくれる他者もいれば、逆効果になる人もいます。あなたは、適切な人を頼っているでしょうか。調査データをもとに考えてみましょう。

1. 頼る相手で大きく変わる

前編(他者の存在が意思決定補足1の質を高める)では、こう説明しました。

一人で意思決定をしても限界がある。他者との相互作用が意思決定の質を高めてくれる。なぜならば、他者は次の3つの効果をもたらしてくれるからだ。

  1. 事実を整理する段階では、事実情報を補完してくれる(事実情報の補完)。
  2. アイデアを出す段階では、自分とは異なる解釈に気づかせてくれる(異なる解釈の発見)。
  3. 決定する段階では、決断を後押ししてくれる(自信と後押し)。

だからといって、誰を頼っても良いわけではありません。それぞれの段階で頼るべき適切な他者がいるのです。間違った人に助言を求めれば、プラスにならないばかりか、マイナスになってしまいます。例えば、次のような大惨事につながってしまったことがありました。

1961年のことだった。CIAや国防省との議論を重ねた結果、大統領のジョン・F・ケネディは、亡命キューバ人によるキューバへの侵攻に対して支援する決断を下した。対立するカストロ政権を打倒するためである。
4月17日の未明に、訓練され、武装された亡命キューバ人1,400人がピッグス湾に上陸し、勇敢に戦った。しかし、上手くいったのはその一瞬だけで、備弾薬と兵糧を積んだ船は撃沈され、上陸した部隊は包囲され、3日目までに、そのほとんどが殺害されるか捉えられてしまった。ケネディ政権にとっては大失態となった。多くの人は、どうしてそんな計画をケネディが許したのかと不思議に思い、ケネディ自身も「なんというバカなことをしたことか。連中に任せるなんてと言ったという。注1

ケネディの判断ミスは、議論段階でのいくつかの不備が原因でした。侵攻を主張したCIA高官から提出された情報が歪められていたり、侵攻の弱点を指摘するかもしれない国務省中堅職員が議論から除外されるなどして、激しい意見対立が起こらないまま決断が下されたのです。
そこで、翌年にキューバ危機に直面した際には、ケネディは議論方法を工夫しました。例えば、率直な意見が出るようにケネディ自身が意図的に席を外したりし、あるいは2つのグループに分けて相反する観点から検討させたりもしました。そして、意見を聞く相手も変えました。前回の反省から、正確な情報を知る中堅職員や外部の専門家も招きました。それ以外に集められた十数人のメンバーには、ほとんど共通点はありません。多様な情報や意見を得られるようにするためでした。さらには弟のロバート・ケネディを呼び寄せて、議論結果にわざと難癖をつけさせたりもしたのです。注2ケネディは正しい決断をするために、誰を頼るべきかを吟味したのです。

2. 誰を頼るべきか

仕事上の意思決定において、私どもビジネスパーソンは誰を頼るべきなのでしょうか。1,225人に対する調査を実施しました。調査では仕事において最も困難だった意思決定場面を1つだけ思い浮かべてもらい、そのときの意思決定プロセスについて、いくつかの質問をしました。

2-1. 仕事上の関係性から、頼るべき他者を考える

はじめに分析した観点は、役職や所属部門など仕事上の関係です。調査では2つのことを尋ねました。まず意思決定の各段階で「誰を頼ったか」を聞き、次に「その人の意見やアドバイスがどれだけ役立ったのか」を聞きました。その結果が図表1です。

図表1:他者が役立った度合い(仕事上の関係別)

1つ目の質問「誰を頼ったか」の回答数は、図中のn数に表れています。最も多いのが「1.直属の上司」で410人、そして「3.部下(立場が近い)」の403人が続きます。難しい意思決定でも、身近な人を頼ることが多いようです。
2つ目の質問「その人の意見やアドバイスがどれだけ役立ったか」の回答結果は、棒グラフの長さで表されています。「事実情報の補完」、「異なる解釈」、「自信と後押し」のすべてで、「1.直属の上司」の棒グラフの長さが目につきます。ただし7点尺度の質問方法で僅か0.1~0.3の差です。大きな差があるとはいえません。補足2その相手の役職や所属がどこであれ、助言を求めた相手は、いずれもある程度の期待に応えていると考えられます。どんなタイプでも、そこそこ役立つのです。

さて、この図では、上司以外にも着目する相手がいます。「5.他部門(仕事上の関係が強い)」です。最も困難な意思決定のときに「誰を頼ったか」という質問に対しては、3番目に多い126人が選択し、「その人の意見やアドバイスがどれだけ役立ったか」を表す棒グラフは、「1.直属の上司」に次ぐ長さになっています。他の相手と統計的に差があるとはいえないのですが、一考の価値があります。
これは、「弱い紐帯の強み(The Strength of Weak Ties)」を意味しているのかもしれません。ちなみに、紐帯とはふたつのものを結ぶ付けるもののことです。この現象を発見したのは、社会学者のグラノヴェターです。転職者の情報源を調べたところ、強いつながりの人よりも、それほど強くない人の情報が役立っているということに気付いたのです。注3つながりが強い人は同じような情報しか持っていないけれども、つながりが弱い人は自分が持っていない情報を持っていることが多いためです。
図表1も、同じことを示唆しているのかもしれません。いつも顔を合わせながら仕事をしている上司や部下よりも、壁を隔てた人の方が普段は得られない情報やアイデアをもたらしてくれることがあるのでしょう。ぜひ、身近な人以外も頼ってみてください。ただし、注意点があります。サンプル数が少ないため仮説の域を出ませんが、仕事上の関係が薄すぎる場合(6.他部門(仕事上の関係が弱い))は、思ったほどの効果を得られないかもしれません。遠過ぎてはいけないのです。自分の状況をある程度は理解してくれている、程よい距離の相手が良いでしょう。

2-2. 思考タイプから、頼るべき他者を考える

本コラム冒頭の質問に戻ります。あなたが何かを決めるときに頼っている人の思考タイプを、3つの段階それぞれで答えていただきました。図表2は、相手の思考タイプ別の分析です。この図では、色の濃淡と矢印の太さで、役立つ確度を示しています。ちなみに図表1と同じグラフにすれば混乱させずに済んだのでしょうが、取得したデータのタイプが異なっていたので、同じ分析ができませんでした。ご容赦ください。

図表2:相手が役立つ確度(思考タイプ別)

  • 事実の整理段階で頼るべき思考タイプ
    事実情報を補完してくれるのは、思考タイプにはあまり関係ないようです。「事実重視」の人はもちろんですが、それ以外にもいろんなタイプの人が役立ちます。この段階では、その相手が必要な情報を持っているかどうかが鍵となります。それゆえ、相手の思考タイプはそれほど関係ないのでしょう。
    ただし、役立つ保証のない思考タイプが1つだけあります。「挑戦志向」です。リスクをとって果敢にチャレンジする人は、多少の問題点やデメリットには目をつむるからかもしれません。この思考タイプの人には、事実情報が揃った後に関与してもらう方が良いでしょう。
  • アイデア出し段階で頼るべき思考タイプ
    次のアイデア出し段階(「異なる解釈の発見」)では、「創造性」豊かな人と「挑戦志向」の人が最も役立ちます。感覚的にも分かるでしょう。一方で「事実重視」タイプは、この段階でのパートナーとしては不向きなようです。先日あるニュース番組を見ていたときのことです。コメントを求められたコメンテーターが、周知の事実を横断的にしかも長々と説明した上で「今後も目が話せないですね」と締めくくっていました。それでは存在価値がありません。批判を覚悟で自分の意見を述べてはじめて、さまざまな議論に発展するものです。
    さらに付け加えれば、この段階ではあなたとは違う思考タイプの人から、またできるだけ多様な思考タイプの人から意見を聞くことも大切です。コラム前編で説明したように、最終決定する前に出来るだけ発散して多くの選択肢を列挙しておく必要があり、そのためには認知的多様性が欠かせないからです。
  • 決定段階で頼るべき思考タイプ
    最後の決定段階(「自信と後押し」)で役立つタイプは、「先見性」と「決断力」です。その取り組みの結果を見通すことができ、自分自身もものごとを先送りにしない人に賛同してもらえれば、決断しやすくなるといえます。一例を挙げれば、民泊サイトのAirbnbです。僅か9年間で企業価値が3兆円を超えた同社ですが、当初は出資者が見つからず、シリアルを販売して日銭を稼いでいたぐらいでした。不安に駆られていた創業者たちを前向きにさせたのが、ベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルからの出資です。資金もさることながら、アップルやグーグルなどを見出した同社に認められたことで、自分たちがやろうとしていることの正しさが証明されたと感じたのです。注4
    反対に、「創造性」が高い人は要注意です。さんざん議論を重ねてようやく収束段階に移ったにもかかわらず、ちゃぶ台をひっくり返すような発言をされてしまうかもしれません。

3. あなたに必要な3人は

私どものこれまでの調査注5から、社会人が仕事で成果を出し、成長していくには、3人のメンターが必要だということがわかっています。その3人とは、“教えてくれる人”、“気づかせてくれる人”、“前向きにしてくれる人”です。
それは仕事における意思決定でも同じだといえます。いざというときに適切な決断をするためには、事実を収集する段階では“教えてくれる人”が必要であり、考えを発散する段階では“気づかせてくれる人”、そして最後に決断する段階では“前向きにしてくれる人”が必要です。こうした人たちがあなたの側にいてくれたら、先送りすることなく適切な判断ができる確率が高まります。意思決定のスピードが求められるいま、こうした他者にすぐにアクセスできる状態をつくっておくことは、私どもビジネスパーソンにとって大切なことです。
あなたには、3つのタイプのメンターが揃っていますか?

本コラムで説明したように、意思決定の質を高めるには他者との相互作用が必要ですが、それだけでは十分とはいえません。情報を整理・分析するフレームや論理的・戦略的に考える思考能力なども欠かせません。以下に紹介する書籍にて解説していますので、併せてお読みください。

書籍紹介『事業戦略策定ガイドブック―理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』

[著] 坂本 雅明 [出版社] 同文舘出版

首都大学東京大学院ビジネススクールでの講義内容をもとに、戦略策定手法と背景理論を解説した戦略策定の教科書です。戦略策定ステップごとに、必要となる情報やその分類・整理方法、分析に際しての勘所、そしてアウトプットとなる意思決定項目が説明されています。全ステップを一貫したケーススタディーも付属しており、インプットとアウトプットを繰り返しながら、戦略の意思決定に必要な思考技術を習得できます。

補足

  • 補足1 本稿では、「意思決定」「決定」「決断」という似た意味の言葉が出てきます。それぞれ次のように定義にしています。
    「意思決定」:検討着手から決定までを含めたプロセス全体。「決定」:最終的に決める行為。「決断」:決定の中でも何かを断つような難しい決定。
  • 補足2 差があるかどうかを統計的に検定する方法として、t検定というものがあります。この方法ですべての棒グラフの組み合わせを検定したところ、多くは差があるとは認められませんでした。差があるという結果になったのは、「異なる解釈の発見」の1.直属の上司と3.部下(立場が近い)および1.直属の上司と4.部下(立場が遠い)、そして「自信と後押し」の1.直属の上司と3.部下(立場が近い)でした。

引用・参考文献

  • 注1 Theodore C. Sorensen (1965) Kennedy, New Bantam.[シオドア・ソレンソン著、大前正臣訳(1987)『ケネディの道―未来を拓いた大統領』サイマル出版会。]をもとに作成
  • 注2 Michael A. Roberto (2005) Why Great Leaders Don‘t Take Yes for an Answer: Managing for Conflict and Consensus, Wharton School Publishing.[マイケル・A・ロベルト著、スカイライトコンサルティング訳(2006)『決断の本質: プロセス志向の意思決定マネジメント』英治出版。]をもとに作成
  • 注3 Mark Granovetter (1973) The Strength of Weak Ties; American Journal of Sociology, 78(6): 1360-1380.
  • 注4 Leigh Gallagher (2017) Airbnb Story: How Three Ordinary Guys Disrupted an Industry, Made Billions . . . and Created Plenty of Controversy, Houghton Mifflin Harcourt.[リー・ギャラガー著、関美和訳(2017)『Airbnb Story:大胆なアイデアを生み、困難を乗り越え、超人気サービスをつくる方法』日経BP社
  • 注5 富士ゼロックス総合教育研究所著、中原淳・松尾睦監修 (2008)『人材開発白書2009:他者との“かかわり”が個人を成長させる』富士ゼロックス総合教育研究所
  • 注記 このレポートは2017年7月時点の情報です。2019年7月1日より株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所はパーソルラーニング株式会社になりました。

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