ビジネスレポート

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なぜ、自分を変えることができないのか(後編)
― それまでのやり方を改める際の障害と克服方法 ―

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長
首都大学東京大学院ビジネススクール非常勤講師
坂本雅明

著者プロフィール

1969年生まれ。1992年上智大学卒業、2005年一橋大学修士課程修了(MBA)、2009年東京工業大学博士後期課程修了(博士(技術経営))。一橋大学イノベーション研究センター非常勤共同研究員(2005~2006)。2012年より首都大学東京大学院ビジネススクールの非常勤講師として、戦略経営I II(戦略の策定と実行管理)を担当。また、2006年より富士ゼロックス総合教育研究所研究室長として戦略策定・展開プロセスの研究に従事するとともに事業戦略策定や新事業開発、次世代リーダー育成、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。
主要著書に『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版、2015年)、『事業戦略策定ガイドブック』(同文舘出版、2016年)。

私たちは閉ざされた世界の中で自給自足の事業を営んでいるわけではありません。さまざまな外部環境の影響を受けながら、事業活動をしています。しかもこの外部環境は絶えず変化します。鏡の国のアリスではないですが、同じ場所にとどまっているためには、変わり続けなければならないのです。

とはいうものの、自らを変えることはそう簡単ではありません。自己変革には2つのハードルがあります。1つ目のハードルは、それまでの自分のやり方がおかしいことに気づけるかどうかです。そして、たとえ気づけたとしても行動に移せないことはたくさんあります。これが2つ目のハードルです。1つ目のハードルを説明した前編に続き、この後編では、すぐに行動に移す方法を調査データや研究結果を用いながら解説します。

1. 仕事上の行動変容の阻害要因

トム・ソーヤの冒険という本があります。その著者であるマーク・トウェインは、このようなことを言ったそうです。

   「禁煙なんて簡単だ。私はもう何千回もやっている。」

このコラムを読んでいる方々の中にも、禁煙をしなければと思っているのになかなかできない人がいるのではないでしょうか。あるデータによれば、食生活を改めたり運動をしなければ心臓病で死ぬと専門医に警告されても、そのようにする人は7人に1人しかいないそうです注1。人は変わらなければと思っても、行動に移せるとは限らないのです。

ここでは禁煙ができない理由を分析しても仕方がありません。ビジネスの場面で行動変容ができない理由は、それとはおそらく異なるでしょう。ビジネスの世界では、ビジネス特有の障害があるはずです。そこで1,031人に対する定量調査を行い、その調査データを因子分析という手法で分析した結果、次の5つの障害が抽出されました。

<仕事上の行動変容を阻む5つの障害>

  • 自分自身の迷い:なかなか強い意志を持てず、このままでもよいのではと思ってしまうこと
  • 通常業務での忙殺:日常業務に追われ、腰を据えて取り組む時間を確保できないこと
  • 現状の枠組みの弊害:現状の制度やルール、自分の権限や業務範囲と整合がとれないこと
  • 強固な反対:上司や利害関係者に認めてもらえなかったり、強い反対があること
  • 周囲の無関心:周りがこのままでもよい、面倒なことに巻き込まれたくないと思っていること

以下の図表1は因子分析の結果です。たくさんの数字が記載されていますがそれらは無視して、「質問項目」だけを見てください。5つの障害それぞれが具体的にイメージできると思います。なお、上記と順番が入れ替わっているところがあるので、注意してください。

図表1:ビジネスパーソンの行動変容を阻害する5つの障害

2. 障害を乗り越えて行動を変えるために

さて、これら5つの障害は、さらに3つに分類することができます。「自分自身の迷い」と「通常業務での忙殺」は“本人”に起因することです。そして「現状の枠組みの弊害」は“構造”に、また「強固な反対」と「周囲の無関心」は“周囲”に関することです。つまり、行動変容の障害を乗り越えるには、“本人のマネジメント”、“構造のマネジメント”、“周囲のマネジメント”、という3種類のマネジメントが必要になります。面白いことに、自己変革といいながら、マネジメントすべきものは自己だけではないのです。

<行動変容に必要な3つのマネジメント>

  • 自分自身の迷い・通常業務での忙殺:本人のマネジメント
  • 現状の枠組みの弊害:構造のマネジメント
  • 強固な反対・周囲の無関心:周囲のマネジメント

それでは、この3種類のマネジメントのポイントは何でしょうか。それを考えるために、5つの障害をもう少し掘り下げることにします。どのくらい強い阻害要因になっているのかを属性別(男性・女性×一般社員・部課長)に整理したのが、図表2です。

図表2:5つの障害と属性別の程度

この図表からは、いくつかの特徴が読み取れます。まずは、いずれの属性でも大きな障害になっているのが、「通常業務での忙殺」です。自分の行動ややり方を本当に変えるべきかを迷っている(「自分自身の迷い」)のではなく、迷いはないのだけれども実行に移すための十分な時間を確保できないことに悩まされているようです。“本人のマネジメント”では、時間を確保することがポイントになりそうです。

そして、「現状の枠組みの弊害」、「強固な反対」、「周囲の無関心」には、共通の傾向がみられます。下の2本の棒グラフよりも、上の2本の方が長くなっています。つまり、一般社員よりもマネージャーの方が、より強い阻害要因として感じているということです。“構造のマネジメント”と“周囲のマネジメント”は、特にマネージャーが意識しなければならないといえます。マネージャーともなれば、自己変革といえども“自己”だけで完結できないものがほとんどだからなのでしょう。既存の仕事の枠組み(構造)では収まりきれないものもあるでしょうし、周囲への影響も少なくないのでしょう。

こうした中では、具体的にどうすればよいのでしょうか。自分の間違いに気づけた後に、すぐに自分の行動を変えたり新しいやり方を導入するには、何に気をつければよいのでしょうか。ここからは、マネージャーを想定した上で、いくつかのヒントを提供します。

2-1. 自己のマネジメント:具体的で短期の目標に落とし込むことで、先送りを避ける

通常業務で忙殺されてしまうがゆえに新しいことに取り組めないという理由は、どの属性でも上位に挙がっています。もしそうであれば、業務の効率化に取り組まなければならないことになります。あるいは、何かの業務を止める決断も必要になるでしょう。業務効率が問題なのであれば、その専門書に譲ります。しかし、その前に本当に時間がないことが原因なのでしょうか。

夏休みの旅行の予約をしそびれて、結局、家でだらだら過ごすことになってしまったことはないでしょうか。あるいは、配偶者への誕生日プレゼントを買いそびれて、当日に慌ててインターネットで購入して目録だけ渡したことはないでしょうか(ちなみこの2つの事例は、何を隠そう、私自身のことです)。旅行の予約をする時間も、プレゼントを買う時間も、その気になれば簡単に捻出できます。「忙しい」といつも口にしている人は、考えてみてください。本当に時間がないのだろうかと。
多くの場合は、時間がないわけではありません。なかなか重い腰が上がらずに、あるいはそれほど重要ではない目の前の業務を優先してしまい、先送りをしてしまっているのです。

もしこのコラムをお読みいただいている方々もそうだった場合は、この方法がヒントになると思います。それは、具体的で短期の目標に落とし込むことです。

人間には、長期的な目標や抽象的すぎる目標はなかなか行動に移せないという傾向があります注2。反対に、目の前の具体的な目標ほど、すぐに行動を起こしやすいのです。例えば、個人営業スタイルが上手くいかなくなったことに気づいて、チーム営業スタイルに変えようとしたとしましょう。もちろん、マネージャーであるあなただけが変わればよいというわけではありません。一方、それまでのやり方に慣れていたメンバーからは、大きな拒絶反応が予想されます。このような難しい目標でも、「1週間以内に3人のキーマンと意見交換をし、最低一人の賛同者を得る」という目標に落とし込めば、心理的負担も軽くなります。最初の一歩を踏み出してみようと思うようになるでしょう。

この目標の細分化には、派生効果があります。小さな目標を達成することで自己効力感が高まり、取り組みにドライブがかかるのです。自己効力感とは、自分は上手くやることができるだろうという自信のことであり、心理学者のA. バンデューラによって提唱された概念です。自己効力感が高ければ、逆境を跳ね返す力が強くなるといいます注3。小さな目標を達成することで、次のより大きな目標に先送りせずに取り掛かることが期待できます。

2-2. 構造のマネジメント:構造変更に過度に期待せず、ソフトパワーでカバーする

組織にはハード面とソフト面があります。「現状の枠組み」の内訳である制度やルール、権限のあり方、業務分担などのハード面であり、マネジメントや人材などがソフト面です。組織問題の原因として、しばしばハード面が挙げられます。例えば、業績評価制度と整合していないために新しい方針に従ってもらえないなどという話は、よく耳にするところです。
しかし、制度にはベストなものはありません。どのようなものを導入しても、必ずデメリットが付きまといます。例えば株式会社サイバーエージェント取締役人事部長の曽山哲人氏は、こう述べています。

「どんなに練った制度でも、必ず白けてしまう人がいます(著者注:その制度によって不利になったり、あまり恩恵にあずかれない人がネガティブな反応をすることや、斜に構えること)。制度自体を作り込み過ぎないことが大切です。制度は1~2割、運用が8~9割注4です。」

それにもかかわらず、メリットだけに着目して安易に組織のハード面をいじろうとする人は後を絶ちません。ある調査によれば、新任CEOの半数近くが就任後2年以内に組織再編に着手するものの、大半の場合は失敗に終わるといいます注5
同様に、マネージャーが新たに取り組もうとしていることに制度やルール、業務分担等を合わせようとしても、別のところで必ず不整合が生じてしまうでしょう。さらには、そもそもそのマネージャーが新たに取り組もうとしていることだけのために、会社の制度やルールが存在しているわけではないのです。権限がなくても、あるいは自分の業務範囲を超えることでも、個人的な持ち味や影響力、あるいはコミュニケーション力を行使してものごとを進めている人はたくさんいます。構造面の改善は時にはもちろん大切なことですが、それに頼ることなく、まずはソフトパワーでカバーすることを考えるべきでしょう。

2-3. 周囲のマネジメント:相手のメリットを訴求するとともに、日頃から信頼残高を増やす

自分一人で完結することであればよいのでしょうが、マネージャーともなれば、何か新しいことを始めようとすれば、必ずといってよいほど、様々な所に影響を与えます。そして影響を及ぼす範囲が広くなるほど、自分の行動ややり方を変えることが難しくなります。周囲の協力を得るには、どうすればよいのでしょうか。

私どもは、以前、周囲を巻き込んで大きな成果を挙げているマネージャーの特徴を分析しました注6。その結果、2つの特徴が浮かび上がりました。1つ目は、相手の利害を考えていることです。周囲に何かを頼もうにも、相手には相手の考えがあります。そうした中では、相手の利害を理解し、相手のメリットを訴求するような対応が必要です。自分の思いや考えを熱く語るだけだというのが、最もやってはいけないことです。

ところがどんなに相手のメリットを訴えても、なかなか納得してもらえないこともあります。頼む前に勝負がついていることもあるのです。相手が協力依頼に応じるかどうかは、依頼内容だけでなく、依頼する人でも判断します。「よくわからないけど、この人が言っているのなら間違いないだろう」と思われる人もいれば、逆に「言っていることは正しいかもしれないけど、何かありそうだなぁ」と思われてしまう人もいます。前者のタイプは、信頼残高注7が高い人です。これが2つ目の特徴です。信頼残高とは銀行の預金残高をメタファーにした言葉であり、信頼に足りる行動をすれば残高は増え、裏切れば減ってしまいます。マネージャーが機敏に自己変革を遂げるためには、日ごろから信頼残高を増やす努力も大切なのです。

3. おわりに

入社間もない頃のことを思い出してください。その頃は、どのように仕事をしていたでしょうか。恐らく、全てのことが新鮮に感じられ、なんでも吸収しようと思って働いたことと思います。今はどうでしょうか。その頃に比べるとはるかに能力が付き、自分で仕事を切り盛りするようになり、その結果、組織や部下に対するもどかしさを感じることも多くなったのではと思います。自分のことだけでなく、組織を変えたいという気持ちが強くなってきていると思います。そうした気持ちはとても健全だと思います。

組織変革という言葉もありますが、組織が変わるわけではありません。組織の中にいる一人ひとりが変わっているのです。そして組織を変えようとしたら、その中の一人ひとりに働きかけなければなりません。しかし、基本的には他人をコントロールすることはできません。でも、自分のことならコントロールできます。他人を変えようとしたら、まずは自分から変わるべきです。その姿を見て、きっと周りも変わってくれることでしょう。そうしたことに取り組もうと思っている方々に、この2回のコラムが多少なりとも役立つことができれば幸いです。

  • 注1 <出典> Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey (2009) Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization, Harvard Business Review Press. [ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー著、池村千秋訳(2013)『なぜ人と組織は変われないのか―ハーバード流 自己変革の理論と実践』英治出版
  • 注2 <出典>Gary Latham (2007) Work motivation, Sage Publication.[ゲイリー・レイサム著、金井壽宏監訳、依田卓巳訳(2009)『ワーク・モティベーション』NTT出版
  • 注3 <出典>Albert Bandula (2001) Social cognitive theory: An agentic perspective, Annual Review of Psychology, 52, 1-26.
  • 注4 2013年8月12日にインタビューを実施。役職はインタビュー当時
  • 注5 <出典>Blenko, M. W., Mankins M. C. and P. Rogers (2010) The Decision-Driven Organization, Harvard Business Review, 88, 54-62.
  • 注6 <出典>富士ゼロックス総合教育研究所(2013)『人材開発白書2013:戦略実行力―組織の壁とミドルの巻き込み力』
  • 注7 社会心理学者のEdwin. P. Hollanderが1970年代に提唱した信頼蓄積理論を起源にする
  • 注記 このレポートは2018年1月時点の情報です。2019年7月1日より株式会社 富士ゼロックス総合教育研究所はパーソルラーニング株式会社になりました。

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